犬と歩けば……｜リアクション

犬と歩けば……

　今日もティナ・フォルトゥスは、日課の犬の散歩に出かけていた。彼女は４頭の大型犬を飼っている為、散歩は二回に分けて。一回目の今はダルメシアンのロッキーとラフ・コリーのラッキーの順番だ。
　向かったのは寝子ヶ浜海浜公園である。
　ここの広い園内は散歩コースにもなるし、広大なドッグランも有している為、大型犬の運動をさせるにはもってこいの場所だった。
　ティナは彼らの為にフライングディスクなどの遊び道具も準備してきていたが、まずは自由に遊ばせてやろうと、リードを離して合図する。
「行っておいで！　ロッキー、ラッキー」
　今か今かと待ち構えていた二頭の犬は、主人の声を聞くなり、嬉しそうに芝生の上を駆けて行った。
　白と黒のコントラストが見事なマダラ模様と、風を受けるトライカラーをティナはを笑顔で見送り、ドッグランの内部を観察する。フリーエリアには、彼女の犬たちと同じように立派な大型犬が、数頭跳ね回っていた。
（今日は多いですわね……。ロッキーとラッキーも他の犬とも遊んで貰えるかしら）
　そんな風に思っていると、近くに気配を感じた。
「ええと……、こんにちは！」
　元気よく挨拶してきたのは、小学生の少年——双葉由貴だった。
　マナーを気にしているらしい彼の殊勝な態度に、ティナの口角が上がる。彼女は長い足の膝を折って、挨拶を返した。
　由貴が連れていたのは、艶やかな黒い毛をしたレトリバー犬だった。
「綺麗な毛並みですわね、名前は？」
「フラットコーテッドレトリバーのゾーイ」
　由貴がリードを外そうとしている間、ゾーイは大人しくしていたが、尻尾ははち切れんばかりに左右に揺れていた。由貴はそれをちらりと見て、カバンからボールを取り出す。
「ゾーイ、Go！」
　由貴の掛け声と共に投げられたボールをめがけて、ゾーイが駆け出す。と、入れ替わるようにティナのロッキーとラッキーが、主人のもとへ駆け寄ってきた。
「ロッキーとラッキー、あたしの犬ですわ」
「かっこいいな……！」
　由貴は二頭の立派な体躯に感嘆を洩らした。彼の素直な反応が嬉しくて、ティナも饒舌になる。
「ええ、犬は可愛いわ。あたしはあと二頭飼っているの。ロボとブランカという名前よ」
「犬種は？」
「狼犬ですわ」
「わあ、見てみたいな」
　狼犬とはかなり珍しい。由貴が驚きと憧れを半々に好奇の目をティナへ向けていると、丁度ゾーイがボールをくわえて戻って来る。
「Good,Good！　よく出来たなゾーイ、偉いぞ！」
　由貴がゾーイを撫でていると、それを見ていたロッキーとラッキーが、ティナを見上げた。その視線は自分たちも遊びたいと言っているようだ。
「ロッキーとラッキーもボール？」
　ティナがカバンの中のおもちゃを探るそぶりを見せると、ゾーイも興味をひかれたようだ。
「あら、楽しいものがあるのが分かったのかしら」
　ティナがくすりと笑う。
「ゾーイは頭が良いから」
　と、由貴は自慢げに言ってから、ボールをティナに渡した。
「一緒に遊ぼう！」

　こうして三頭の犬と二人の飼い主が交流する様子を、フィリップ・ヨソナラは遠目に眺め、彼のヨーロピアンドーベルマンへ声をかけた。
「ダルメシアン、コリー、レトリバー……ドッグラン、やぱしたくさんの犬がいますね。
　アイザックの友達も増えるかもしれませんよ」
　リードはまだ外していない。
　祖父と祖母の代理の散歩とあって、まだ手探りなところのある彼の視線に、見たことのある姿が止まった。薄茶色の髪の彼は、確か同じ寝子島中学の先輩だった筈——。
「おはようございます！　ごいしょー、えーと、いっしょしてもいいですか？」
　思い切って挨拶したフィリップに、その先輩と、同行者たちが一気に振り返った。容姿から皆年上なのがわかる。これには緊張してしまいそうになるが、初対面の先輩と一緒に遊べないかと頼むくらいには、フィリップは社交的な性格だった。
「フィリップ・ヨソナラ、いいます。寝子中1年生です。よろしくお願いしますっ」
「私たちと同じ中学ね」
　黒く長い髪を一つに結えたこの女の先輩も、フィリップには見覚えがあったように思えた。
「貴家衿花よ。私の犬はあっちにいる二頭のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」
　衿花は指をさして、彼女のイシカとホノリを紹介した。続いて例の薄茶色の髪の先輩が口を開く。
「イリヤ・ジュラヴリョフです。あっちにボルゾイがいるでしょう」
　フィリップはが頷くと、イリヤは首を軽く傾げて笑顔を向けた。
「あれが僕の犬、ポンチク」　

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