犬と歩けば……｜リアクション

犬と歩けば……

　空はカラッと晴れていても、空気に冷たさを感じる１２月の午後——。

　シーサイドタウンへ買い物にきた千鳥雅人は、冷え切った身体を温めようと、目に付いたカフェへ飛び込んだ。
「うー、寒い寒い……。思ったより冷え込んできたよー……」
　両腕を抱くように摩っていると、彼の来店理由を察した店員は微笑み、「店で一等暖かいところへご案内しますね」と奥の席を勧めてくれる。彼女の後ろを付いて店内をきょろっとひと舐め観察してみたら、この店が普通とは少し違った客層も受け入れている事に気付けた。
「あれ？　ここって——」
　着席した雅人がぱちくりと瞬きをした表情に、店員は目の前の客が外の看板で店のコンセプトを了解して入店したのではないと気づいた。
「当店はわんちゃんもご一緒にお食事を出来るカフェなんです。……大丈夫でしたか？」
「あっ、大丈夫です全然！」
　雅人は心配げな店員へ笑顔を向けてから、改めて店の中を眺めた。
　暖をとるために慌てて入店したから分からなかったが、そう言えば看板に犬の絵が描かれていたのを思い出す。だとするとあそこに小さく添えられていたのは、ペット関係の注意文だったに違いない。
　犬たちが座ったり寝そべったりと、リラックスした時を愉しんでいる様子が見えた。
「普段はテラス席をご利用のお客様が多いんですが、今日は寒いですから」
　くすりと笑う店員の言う通り、犬たちも雅人と同じように冬の装いだ。犬も体質や体調によっては、服を着せてあげた方が良いのだが、今はダウンジャケット風やダッフルコート風など、おしゃれなデザインが沢山ある。
　そんな外出着で飼い主の足元で皆行儀よく、ちょこんとお澄まししている様は、雅人の目を楽しませ心をほっこりとさせた。
「いいなぁ……可愛いなぁ……」

　注文を終えて時間が空くと、視線は自然と犬たちへ向いていた。
　そして見ていると触れ合いたくなるのが、人類の友たる彼らの持つ魔力だろう。
（うう、やっぱりいいなぁ……。飼い主さんに触ってもいいか、頼んでみようかな……？）
　雅人は尻込みしつつも、うずうずと胸に湧き出てくる感情に任せ、思い切って隣のテーブルへ近寄って行った。
「こんにちはー、えっと……」
　雅人が飼い主に声を掛ける前に、少し長い顔がくるりとこちらを見上げてきた。ダックスフント——、名前の通り穴熊猟に使われる為に改良された短い手足が特徴的な小型犬だ。
「な、撫でさせて貰ってもいいですかー？」
　飼い主の初老の女性は、雅人の緊張した面持ちと、チラチラと犬へ向ける眼差しの柔らかさに、ニッコリと微笑み彼の願いを快諾してくれた。
「モモちゃん良かったねー。お兄ちゃんがお友達になりにきてくれたわよ」
「名前モモちゃんって言うんですねー」
「ええ、男の子よ。人間だとお兄ちゃんより年上さんかしら」
　飼い主のフォローに背中を押して貰い、雅人はそっと手を伸ばして、モモの頭をひと撫でした。モモは雅人の顔をじっと見つめているが、特に嫌そうな素振りも見せない。
　犬は人間と同様に表情筋が発達している為、よく見ていればこちらにも感情が伝わる。
　それは犬側も同じ……、なのかもしれなかった。
　モモは雅人の表情から理解したのか、彼の緊張を解すように、頭におずおずと触れていた手へ鼻先を向けるなりぺろりと舐めた。
「わっ！」
　雅人の上げた声に飼い主の方は犬が粗相をしたのかと驚いたが、これで雅人とモモの距離は一気に縮まったようだ。
　雅人がモモのロングヘアードの長く赤い毛をモフモフとした感触を愉しむように余すところなく撫でだすと、懐っこい性格のモモも、彼の愛情表現に尻尾を振って応えていた。　
「ふふーっ、ふかふかで暖かいね～♪」
　

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