見習いサンタのお仕事を手伝ってください！｜リアクション

見習いサンタのお仕事を手伝ってください！

　シーサイドタウンの一角で、夢宮瑠奈は見習いサンタに出会った。
　夕焼けとクリスマスの色に染まった街に、見習いサンタの赤い衣装はよく馴染んでいたけれど、何とはなしに彼のことが気になって、つい声をかけてしまった瑠奈である。
　見習いサンタから彼の使命と、多くの人がその手伝いをしてくれているという話を聞いて、
「あたしも手伝う。あたしのちからで、皆が幸せになるのなら、あたしがんばるよ」
　と、瑠奈は見習いサンタへとほっこりと微笑みかけた。
　屈託のない快い言葉に、見習いサンタが「ありがとう」と目元を柔らかくする。
　そうして瑠奈は、受け取ったサンタ帽を被ると早速大変身！

「うん、張り切っちゃうよ！」
　アイドルとして活動している瑠奈らしいクリスマスなステージ衣装は、彼女にとてもよく似合っている。
　アイドルなサンタさんは、見習いサンタへと軽く手を振ると早速街へと繰り出した。
「でも……どこに行ってみようかな？」
　街を行く足は止めないままで、瑠奈はうーんと首を捻る。
　瑠奈の行動圏は、基本的にはシーサイドタウンだ。
　けれど今日は、旧市街にも足を伸ばしてみたいという気持ちもあって。
（あたしはこの島のロコドル……ご当地アイドルだし、シーサイドタウン中心に活動してるからなぁ）
　ならばやっぱり、ここは敢えて旧市街に向かってみよう。
　そう思い決めて、瑠奈はシーサイドタウンから旧市街へと移動した。
　シーサイドタウンとは全く趣の違うレトロな街並みの中を散策するうちに、瑠奈はいつの間にか、これもまたレトロな雰囲気の商店街を歩いていた。参道商店街である。
「旧市街はあんまり知らないんだよねぇ」
　自分の目には少し新鮮に映る通りをのんびりと歩きながら、
（あたしのするべきことって何だろう？　どんな幸せを届けられるかな？）
　なんて、瑠奈は頭の中に考えを巡らせる。と、その時。
「あれ？　おーい、瑠奈ちゃ～ん！」
　ばっひゅーん☆　ととんできたのは、友人であるののこだ。
　そっと見守りたい、だけど大好きな友人との偶然の出会いに、瑠奈は目を丸くし、けれどすぐに破顔した。
「こんにちは、ののちゃん。……あれ？　その荷物は？」
　瑠奈の目に留まったのは、ののこが大事そうに抱えたクリスマスカラーの包み。
　よくぞ聞いてくれました！　とばかりに、ののこがじゃーん！　と包みを掲げる。
「えへん！　この中にはね～、クリスマスのリースが入ってるんだよ～♪」
「成る程、そうなんだぁ。もうすぐクリスマスだもんね。うん、素敵」
「えへへ、ありがとー！　瑠奈ちゃんの格好もクリスマス！　だねっ！」
　ののこに言われて、瑠奈は自分の服装のことを思い出した。
　そうしてアイドルっぽく、その場でくるりと完璧な一回転！
「ね、この衣装どうかな？」
「うん、よく似合ってるよ～。瑠奈ちゃんかっわいい～！」
　ののことの他愛のない会話が、瑠奈の心にあたたかな幸せを運ぶ。
　しばらくの間立ち話をしてから、瑠奈はののこと別れた。
　今から部屋にリースを飾るのだと意気込んで去っていったののこのことを思うと、思わず頬が緩む。
（シアワセを配るどころか、あたしがシアワセもらっちゃった）
　結局、幸せを届けるために何をするのが正解なのかはわからない。けれど。
（とりあえず、やれることをやってみようかな）
　ののこと過ごした何でもないような時間が、確かに瑠奈の胸をあたためたように。
　自分も誰かの幸せを紡ぎたいと、瑠奈は商店街を出て、慣れない街に拓けた場所を探した。
　やがて見つけたのは、人気のない小さな公園。
　けれど周囲を歩く人は少なくないから、ここからなら、瑠奈の声が誰かに届くはず！
　瑠奈は胸に手を当てると、公園の真ん中、唇から歌声を零し始めた。
（あたしには、今のところは歌しかない）
　旧市街の片隅に朗々と歌声を響かせながら、瑠奈は思う。
（あたしの出来ることは殆ど無いけれど、楽しませることはできるから）
　だから今は、心を込めて、思うままに音を紡ごう。
　この歌が街を行く誰かの心をあたためますようにと、祈りながら。
（この想いと歌が誰かの心に届けば、それがシアワセの合図、かもね）
　そんな気持ちを胸にそっと抱いて、瑠奈はふわりと口元を綻ばせた。
　幸せを願う歌が、辺りに満ちていく。
　公園の外を歩いていた小さな女の子が、ふと足を止めた。
　その瞳が輝いたのを瑠奈は知らないけれど、幸せの歌は、確かに街行く人の心を揺さぶったのだった。

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