サンタクロースの贈り物～クリスマススペシャルラーメン～｜リアクション

サンタクロースの贈り物～クリスマススペシャルラーメン～

　本居陽毬は、その茶色い瞳をまん丸にして、ぽかーんとしていた。
　彼女の目の前には、クリスマス仕様のラーメン屋台があるのだ。
「こりゃ、味をチェックするしかないっしょ！」
　水守流はもう食べる気満々だった。
　クリスマス仕様だろうとラーメン屋台はラーメン屋台。
　食ってなんぼなのだ。
　陽毬を促して、いそいそと二人、屋台のイスに腰掛ける。
「くりすますらーめん？」
　陽毬が、メニューを開いて首を傾げる。
　お値段が書いていないのだ。
（……ところで、これ、おいくらくらいするんですかね……）
　陽毬はお財布の中の金額を思い出そうとする。
　普通のラーメン一杯分ぐらいなら確か入っていたはずだけど、相手はクリスマス仕様のラーメン屋台なのだ。
　クリスマス特別価格ということで、お値段もドドーンと上乗せされている可能性も？
「無料だから、いっぱい食べていって欲しいアル」
　華菜子がにこにこと二人に注文を促す。
「無料！！！！」
　その言葉に、陽毬の食欲魂に火がついた。
「おいおい、無料ってまじかー？」
「もちろんアル。サンタクロースの贈り物アル」
「おっしゃ、俺も食うぞー。俺は醤油が好きだけど、味噌と塩、とんこつからカレーラーメンに、トマトラーメンまでどれでもラーメンは大好きだぜ！」
「それなら、醤油ラーメンをお勧めするアル」
「だよなー。やっぱり醤油が最初でしょ。一杯貰うわ。本居はどうする？」
「私は醤油派だったんだけど、中学にあがるくらいに豚骨に目覚めて、最近では塩も好き！」
「お、じゃあ塩にする？」
「ううん。実はね、私は味噌が苦手なの……」
「味噌が苦手って珍しいな。大体女の子ってとんこつが油っぽくて苦手じゃないか？」
「小学校の頃に給食にでてきた味噌ラーメンが、びっくりするくらい不味くてね？　もういっそ、トラウマものだったよ！」
「なるほど～。給食の麺類は結構伸びちまってるしな。ラーメンみたいに熱々が美味い料理だと、かなり味が劣化しそうだ」
「そうなんだよね。本当は美味しいんだろうけど、あの冷えたお味噌汁に麺を入れたような味噌ラーメンがずっと心に残っちゃってるよ……」
「よし、なら今日はリベンジだ。熱々の味噌ラーメン食って、トラウマ克服しようか」
「うん！」
　嬉しそうに頷く陽毬に頷いて、流は華菜子に「味噌ラーメン一杯！」と注文を入れる。
「思えばラーメンも色々と進化してるんだよなぁ、ダブルスープだの魚介丸ごとスープだのベジポタだの」
「ベジポタってなんだろ？」
「ベジタブル・ポタージュラーメンの略だよ。最近流行りだしたラーメン業界の新ジャンル。ベジタブルの名前どおり、ジャガイモ人参玉ねぎなんかの野菜をたっぷり使って、個性溢れるスープに仕上げてる。大体の店で、野菜の甘みを強く残して、ヘルシー風味か」
「なるほど。女の子の味方だね」
「何かすっげぇ盛りだくさんなのも流行ったりしたっけな、にゃろう系だったか？」
「それは、まさか猫？！」
「なんで猫なんだよ」
「にゃろうだから、にゃー？」
「ないない、それはないな。まぁ、あれはあれで別の食べ物ってジャンルらしいけどな。お、ラーメンできたみたいだな！」
　お喋りをしていたせいか、出来上がるのがとても早かった。
「そんじゃのびる前に食っちまおうぜ！」
「おー！」
　どきどきと、陽毬は恐怖の味噌ラーメンに口をつける。
　一口口に含んだ瞬間、「！」と陽毬は目を見開く。
「美味しい！」
　美味しいのだ。
　子供の頃に食べたあの冷たく伸びきった味噌ラーメンは、味噌ラーメンなんかじゃなかった。
　いま目の前で湯気を立てているこの味噌ラーメンこそが、味噌ラーメンなのだ。
　手打ち麺に絡みつく、濃厚な味噌の味。
　トッピングのバターとチャーシュー、スイートコーンにたっぷりのもやし。
　どれもこれもが陽毬の記憶にある恐怖の味噌ラーメンを一瞬にして蹴散らす美味さ。
「ぷはー！　やっぱ寒い日はラーメンのスープが沁みるぜ……って、おいおいおい、本居、もう平らげたのか？」
「うん、美味しすぎたわ。水守君の玉子、いただきっ！」
　ぱしゅっと、陽毬が流の味噌ラーメンから味つきゆで玉子を強奪した。
「うぉいっ、油断も隙もねーな」
「ふっふっふ、美味しいよ♪　玉子の代わりに、チャーシューあげるね」
「お、サンキュー。また来ような」
「うん！」
　次はどの味にしようかなとか、二人はまだまだ注文し続けた。