THE　FUTON　～猫鳴館防寒大作戦、決行せよ～｜リアクション

THE　FUTON　～猫鳴館防寒大作戦、決行せよ～

　一方、鍋パーティーの準備に大忙しの自治会長、橘明里はというと？
「おーなべおなべ、おいしいおなべー。なのなの～♪」
　鍋の具材の買い出しの前に、猫鳴館の家庭菜園（立派な畑）で入手できない食材をメモしていた。
「じちかいちょーは外回りも重要！　畑にないやつをたくさん買うの！」
　寮生が多い猫鳴館といえども、コストを気にしていては腹を満たせない。
　食事はやはり美味いほどいい。
「そーなの！　ひさごくんにも知らせなきゃなの！」
　寒い日が続くせいか、地下に篭もりがちの骨削瓢にも鍋を食べてもらいたい！
　橘はエンジェル的思考を実行に移した。
「ちかてーこく、ちかてーこく！　ひさごくーん！」
　橘は懐中電灯を片手に地下帝国へ突入していった。
　猫鳴館地下帝国は、猫鳴館の下に存在する元防空壕を更に酔狂な寮生が掘り進めてできた空間である。
　掘り過ぎて遂に温泉まで吹き出し、今は裏寝子温泉と名付けて運営・維持に努めている。
　だが、今やこの空間はかつての活気は見られない……。
「ひーさごくーん！　どこなのなのー？？」
　誰もいない密閉空間は地下熱の逃げる場所がないため、想像以上に蒸し暑い。
　これなら冬場も水着で過ごせそうである。
「す、すごい暑いの……！　もしかして、みんなここに住めば防寒対策ばっちりかもなの？？」
「その通りさぁ！！」
　ザバァッと温泉の中から飛び出してきた人物こそ、地下皇帝ホネソギウスこと骨削瓢その人である。
　決して半魚人ではない。
「数ヶ月前まではあんなに地下帝国も裏寝子温泉も賑やかだったのにねぇ？　今では閑古鳥が鳴く有様たぁ、情けない限りだよぃ」
　ずぶ濡れのまま、ふんどし一丁のまま力説する骨削。
「冬場はここに寮生が住み込めば防寒対策など必要ないさね！　ああ、その代わり、ここはあっしの管轄だから物事の全てはあっしの権力下に入ってもらうけどねぃ？　自治会長だろうが、皇帝の前では服従してもらうよぉ？」
「いやなの」
　だが橘は即答した。笑顔で。
「服従とか良くないの！　みんな仲良く、おなべをたべましょーなのなの！」
「……はい？」
　天真爛漫の橘のテンションに、骨削の思考回路が緊急停止せざるを得ない。
「橘はん、おたくはなにを言ってるんだい？」
「猫鳴館をあったかくして、今夜はおなべをたべるの～！　ひさごくんも一緒にたべるの！　待ってるなのなの！」
　汗だくの橘は手を振りながら出口へと駆けっていった。
「あっ、そういえばサンタさんがプレゼントくれたらしいなの！　楽しみなの～！」
　振り向いて、そう叫ぶ橘。
　そして猛ダッシュで暗闇の中へ消えていくと、「ぴぎゃー！」と悲鳴が上がった。
　……暗闇は足元に注意しなければならない。
「サンタ……？　鍋……？」
　骨削の顔付きが徐々に悪人の顔へと変わっていく。
「ヒッヒッヒ！　だったら今夜は野外で鍋会だねぇ！　ああ、壁に生えてるキノコともやしもむしっておくかね？」
　骨削はずぶ濡れの体を拭き取ると、早速、掘削途中のまま放置されている資材の中から使えそうなものを探すのであった。