焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！｜リアクション

焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！

☆勝負はこれから！

（スカートの中が見える？　性欲より食欲！　無視して登るぞ！）
　ラッキースケベに定評のある御剣刀だが、今回ばかりは食欲優先だ。
　しっかりとロープを掴み、腕でつかんだ場所へ体に引き寄せる様にして登っていく。
（この時に体を上に向かわせようと壁を蹴っていくと登りやすい筈だ）　　　　　　　　　　　　　
　コツを掴めてきたな、と登っていくが。
「上から樽が落ちてくるじゃねえか！」
　ロープをしっかりと掴み体を左右に振りながら躱す。
　躱しきれない樽は、体を壁に引っ付けて樽を背中で転がすようにしてやり過ごした。
「ふう、一安心……って、何でヌルヌルした物が垂れてくるんだよ！」
　今度はロープにローションが垂れてきた。
　刀はロープを体に絡みつかせて固定しながら、ヌルヌルの少なく多少滑っても大丈夫そうな場所を選んで登ることにした。
　そんな刀の鼻孔を、美味しそうな匂いがくすぐる。
「いい匂いだな……家庭科室か。いや、俺は焼きそばパンを食べるんだ！　構ってられるか」
　しかし通り過ぎようとした刀目掛け、家庭科室の窓から光るものが落ちてきた。
「包丁！？　死ぬ死ぬ！」
　なんとか靴を盾にして防ぐ。
　別に誰かが悪意でやっていることではない。ちょっとドジな誰かが取り落とした包丁が、コメディエアーゆえに窓の外まで飛んできただけである。

　家庭科室から漂ってくる匂いに、一馬は決意を新たにする。
「良い匂いだけど……この頂きにゃ、もっと特別なもんがあんだろ！？」
　そして上への注意も抜かりない。
「樽が来るぞ！」
「おっと、少しずれて水もだ！」
　勝負だというのに、下に危険を知らせることも忘れない。
（横にずれなきゃな）
　その上で咄嗟に、配管にランジ（ジャンプのように飛びつく）した。
「ルール内なら窓枠でも配管でも縋ってやるさ」
　指や肘回りの筋肉だけを疲れさせないように、足や体全体をバランス良く使っていく。

　柔和でか弱い乙女、月乃は、家庭科室からの香りに耐えていた。
　空腹時にこの香りは強敵である。
「平常心平常心……。この攻撃に耐えた先に、焼きそばパンが待っているんだ……！」
　その時、上から声がした。
「樽が来るぞ！」
　樽を見上げた月乃は、しかしよけようとしなかった。
　代わりに拳を握りしめ、樽を見つめて気合を入れる。
「はあっ！」
　次の瞬間、拳は樽をバラバラに粉砕していた。
　可憐な乙女の信じられない物理力に、周囲から、おおっ、ほおっ、という感嘆のどよめきが起こる。
「妨害の樽は、この拳で打ち砕く！」
　もちろんもう一方の手はしっかりホールドを掴んでいる。
「でもローションは困ったな。落ちないよう踏ん張ったりするぐらいかな……」
　月乃は焦らず、なるべくローションが少なそうな場所を目指して、安全ルートを移動していった。

　八神修の頭上にも包丁が迫っていた。
　だが修は慌てない。一瞬の集中の後、それは粉々になって風に舞った。
　ろっこん『分解』の力だ。
（液体だろうが何だろうが見えれば良い。一瞬の集中で粉砕し、風に散らすよ）
　そう考えた修だったが、残念ながら液体の分解は無理だった。
　２階から３階へと向かう壁は、ホールドの少ない難関となっている。
（凹凸が少なくても、手や足をつき部分的に壁を『分解』すればいい）
「見ずとも触れれば『分解』できる」
　ローションに濡れながらも、修はくじけず穴に腕や脚を突っ込んで登り続ける。
（上り易くする工夫だ。俺に掛かれば壁はスポンジケーキの如し）
「この足場なら、落下する生徒を助けられる。他人の不幸を喜ぶ精神は持ってないよ」
　誰にも気づかれなくても満足だ、そう修は思う。　