焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！｜リアクション

焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！

☆ラストスパート！
　
（……負けて、たまるか）
　落ち込んでいた恵御納夏朝の中に、ふつふつと湧き上がる感情があった。
（一度や二度、落下したから何だ！　この程度の妨害に……否……自分自身に……負けてたまるか！）
　髪は乱れ、猫さんヘアピンはずれて落ちそうになっている。
　ねこさんパンツのことも、今は気にならなくなっていた。
　今の夏朝は、もう弱気ではなかった。
（妨害も失敗も、僕の悩みもダメな所も。焼きそばパンみたいに食べて飲み込んで次の糧にするんだ……）
　樽も包丁も、痛くても受け止めた。
　幸い致命的な直撃はなかったものの、体のあちこちに打撲の痛みがある。
　けれど、登るための手足の痛みに比べれば重要な問題ではない。もうどこが痛いのかすら定かではなかった。
（この程度の痛みが何だ！）
　ぬめるロープは、手でなく歯で食い縛った。
　近くを登っていく蛇那伊の巨体に比べると、夏朝は子供のようにとても小さく見える。
　その小さな体を支えるべく夏朝は、両手両足、口、体全てで踏ん張った。
　ローションがどんなにぬめっててもまずくても。
（意地でも食べ……登り切ってやる！）
「僕はここを登り切って……焼きそばパンを食べるんだぁぁぁ！」

　蛇那伊の頬を汗が伝った。
　彼にとって全身の筋肉は最強の武器だが、その体重は諸刃の剣だ。
　９９ｋｇの体重にはわずかな無駄もない。けれどそれを引き上げるには常人より多くのパワーとエネルギーを必要とするのも確かだ。
「いいトレーニングになるわね」　
　
　藤堂月乃は、家庭科室の香りとローションのぬるぬるに耐えきった。
　飴玉を舐め終わりそうになると、掴むのが楽な安全な場所で飴玉を口に入れる。
「一粒で元気十倍！　ふぁいとー！　いちげーき！　ひっさーつ！」
　ろっこんで元気になると、再び彼女は登り始めた。
「尾鎌くんも羽生さんも頑張ってるのね、私も負けられない！」
　静かな闘志を燃やしつつ、着実に、楽しく屋上を目指す。

　羽生碧南は地道に落下の遅れを取り戻していた。
「乙女ゲームじゃ好みのエンディングまで何度でも挑戦するのが当り前よ。今度こそ」
　頭上から降ってくる樽は、慎重にロープに飛び移ってやり過ごす。
　壁面の窪みに隠れて直撃を回避したりもする。
　ロープや壁にかけられたローションについては……
「気合いと火事場の馬鹿力で強行突破！」
（ここはもう一息にスピード勝負でケリをつける。そうでないと、とてもじゃないけど登頂なんておぼつかないだろうから）
　ごり押し戦法で果敢に攻める碧南だった。
　

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