焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！｜リアクション

焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！

☆昇り、落ちる者

「なかなかやるわね。常識無視と言うなら、壁に新たな取っ掛かりを作るのもアリよね」
　月乃の樽粉砕や修の壁分解を見ていた尾鎌蛇那伊が笑みを漏らす。
　壁に張り付いたままで呼吸を整え気を練り上げると、手に練り上げた気を集中させる。
　そして貫手で壁を下から斜め上へ抉った。
「これで取っ掛かりができたわ。下から斜め上への抉りは上からぬるぬるしたものが来た時の対策よ。この抉り方なら抉った先に指やつま先を引っ掛ければローション系の被害は軽減できるわ」
　そして悠々と登っていく。
「前２回ほど同じような事態が起きたし、対策はするものよ」

　夜海霧楓は地道に登り続けていた。
　強風はバランスを取って耐え凌ぎ。
　落ちてくる物や滑りは、ナイフを壁に刺して足場を作ったりしながら横のロープへ移りつつ避わす。
（多少の遠回りでも離されず、一気に落ちない事だ。チャンスは必ず来る）
　そしてそれはやってきた。
　後方から追い上げる強者のオーラ！
　蛇那伊が壁を抉るときに放った気である。
「この瞬間を待っていたぜ。今から風は敵ではない、下から俺を押し上げる味方になる！」
　誰もが感じられるわけではないが、楓は今体全体でオーラを感じていた。
　ロープから手を放した楓の体が、ふわりと浮き上がって上空へ飛ばされた！
（もし俺が強者ならば、僅かでも抗ったのなら、強者のオーラは俺を吹き飛ばすまでに至らなかったであろう）
　壁をナイフで割き吹き飛ぶのを調整しながら楓は思う。
（弱者だから取れる捨身の戦法。強弱は勝敗に関係ないぜ。リスクを選びリターンを掴み取った奴が勝つ！）

　屑利執は、ここまでほとんど妨害なしに登ってきた。
　ゴリラ役の沼田さんは、執の近くには樽やローションを落とさない。
　熊先生ゴリラが樽を落とそうとするときも、うまく話しかけて執の進路からはずすよう仕向けてきた。
　しかし中年で別に鍛えてもいない沼田さんは、樽を持ち上げるのに疲弊してきた。
「潮時だな」
　執はそうつぶやくと、打ち合わせ通り、沼田さんの腰にくくってあったロープを掴んだ。
　他の参加者がつかまらないよう、まったくホールドのないところに垂らしてあったものだ。
「沼田さん、バンジージャンプ！」
「ひいいいいいっ！　ほんとに死なないんですかこれえええええ！」
　沼田さんは恐怖に失神しかけながら真っ逆さまに落ちていく。
　コメディエアーがあるから死なないが、ものすごく怖い。
　てこの原理を利用して、代わりに執の体が一気に屋上へ向かう！
　そのスピードは、オーラに巻き上げられる楓を追い越した！

「他人を妨害する気はないが、ルール違反者は別だ」　
　落ちる沼田さんと昇る執の一部始終を見ていた修の目が厳しくなる。
「分解」
　からくりを悟った修の一瞬の集中で、沼田さんと執をつなぐロープが分解された。
「あと少し……って、えええええ！」　
　執は、突然落下に転じた体に何が起きたのかわからなかった。
　そして不運なことに、必死に空に伸ばす手が、屋上へ向かって飛ばされていた楓の服を掴んだ。
「依頼の品が！」
　楓の服の内側にしっかりしまわれていた、購買の人好みの人物が描かれている写真やイラストが、宙を舞う。
　芸術科クラスの秘密兵器として、購買の人へ渡されるはずだった依頼品。
　それに手を伸ばす楓の体もまた、落下へと転じた。
　『焼きそばパン・Ver.ドリームウルトラDXください』とふきだし型に貼られた付箋も、ひらひらと虚しく舞い落ちた。

「ふぎゃああああー！」
　途中で止まるはずだった沼田さんゴリラの体が、地上まで落ちてマットにめり込んだのは言うまでもない。
　その上に執、さらに不運な楓が重なり落ちた。

（俺は落とそうと思えば全員落とせる）
　落下していく執と楓を一瞥して、修は上へと目を向ける。
（けど、しない。これは、自分への挑戦だからだ）　

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