焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！｜リアクション

焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！

☆戦いの前

　ボルダリングとは、元々はフリークライミングの一種で4m程度までの岩や石を登るスポーツである。
　ロープを使用したフリークライミングの練習的な位置づけだった。
　ホールド（壁にある突起や穴や手で持てる部分）を手掛かり、足掛かりにして登り、その登り方（ルート）は、易しいものから難しいものまで何百通りとあるという。

　その朝、北校舎の壁に忽然とボルダリングコースが現れた。
「おっしゃあ、校舎の壁って一度登ってみたかったんだよな。こんな機会めったにねえし、張り切るしかねえだろ！」
　拳を握り気勢を上げるのは、２年の高峰一馬。
　クライミング・ボルダリングが得意な彼にとって、これは願ってもない舞台だった。
「どの色のホールドがどのグレードってのは決まってんのかね。まーわかんなかったら適度にそこそこ難しそうなの選ぶけどな。ホールド以外を掴んだらアウトとかあるん？」
　コースを見ながらつぶやく彼に、桜栄あずさ理事長が答えた。
「グレード？　登ったもの勝ちだからそんなのは関係ないわ。ルールは一階から登って屋上に着くことくらいよ。落ちても何度でも挑戦ＯＫ」
「なるほど。まっ、細かいことは気にしてたら楽しめねえかな」　
　しばらくコースを見ていた一馬は教室へ向かった。
「チョーク代わり……っつか、ちょっと黒板消し借りて来よっと。ベルトに持ち手を通して腰につけときゃ、登ってる途中でも使えるな」
　ボルダリングで言うチョークとは、滑り止めとして手に付着させるものであるが、一馬は黒板用のチョークの粉で代用することにした。

「今度こそは！」
　屑利執は魔方陣を校庭に描いた。
　過去二度、限定焼きそばパンのためにろっこんで沼田さんを呼び出した。しかし二度とも限定焼きそばパンは執の口には入らなかったのである。
（今度はそんな失敗はしない！）
　息まく執は、現れた沼田さんに頼んだ。
「寝子高ＯＢとしてゴリラ役をやってくれ。ただでとは言わない。報酬は焼きそばパン半分と育毛剤だ」
「育毛剤？」
　動揺する沼田さん。そうでなくても気の弱い彼に選択権はなかった。
（他参加者と比べて特別体力がある訳でない俺はゴリラを味方にすることで出し抜いてみせる！　まずは下準備だ）　
　執は沼田さんに耳打ちする。
「えっ、それってどういう……そんな、危険なのでは」
　冷や汗をかく沼田さんに親指を立てる執。
「コメディーエアーがあるから大丈夫！　（多分）死なない！」

（鉄腕なんたらくらい気合いの入った手法で作られた焼きそばパンか……絶対に美味いな）
　お昼にはまだ早いのに、御剣刀は購買室へ向かっていた。
「すみません、今日焼きそばパンを売ってくれる人の名まえは何ていうんですか？」
「えっ？」
　唐突な質問に驚く購買のおばちゃん。
（やっぱり自分の名前を呼んでくれる人に売りたくなるのが人情だもんな）
　食いしん坊万歳かつ負けず嫌いな刀である。
「やっぱりあんた隅におけないねえ。いいよ、教えたげる」
　なぜか嬉しそうなおばちゃんに耳打ちされた。
　その後は、事前にお釣りがでないよう小銭を準備して『焼きそばパン、ドリームウルトラＤＸバージョン下さい』と書いた紙と一緒に取り出しやすくかつ落とさないように服に固定した。
（名前を呼んで反応した所でこの紙とお金を渡して買えばいい）
　これで準備万端だ。

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