焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！｜リアクション

焼きそばパン再び！　あの壁を登れ！

☆野次馬お姉さん

　木鈴寧々子は面白そうなことを嗅ぎ付けるのが得意だ。
　シックスセンスというよりは、どちらかといえば五感で出所を探り当てているようなものだ。
　寝子高と縁もゆかりもない彼女がここにいるのは、まさに”嗅ぎつけた”からなのだ。
「え？　高校でしょ？　ここ」
　たどり着いたとき、建物の外観の異様さに表札とそれとを二往復せざるを得なかった。
　壁についたカラフルな装飾のためだ。妙にそこだけ新しい。
（デザイナーの専門校とか？　でも建物はパッとしないし……）
「ん？　なんか人が登ってる！　あれ、見たことある！　確かボルタ○ン！」
　……惜しい、ちょっと違う。
　寧々子がカラフルな装飾と思いこんだのは、今朝設置されたばかりのボルタリングのコースだったのだ。
「お昼休みみたいだし、ちょっと覗かせてもらおうっと」
　寧々子はちゃっかり学校へ入り込み、ワイワイと見物している学生たちに声をかけた。
「ねえ、何してるの？」
　２４歳とはいえ、可愛い雰囲気で学生の中にいても違和感がない寧々子。
　生徒は気軽に教えてくれた。
「ああ、ＤＸ焼きそばパン争奪のレースなんですよ。最初にたどり着いた限定一名だけが、『焼きそばパン　～ドリームウルトラＤＸバージョン～』をゲットできるんです」
「へぇー、なんかすごい高校ね……」
　訳を聞いた寧々子は少女のように瞳を輝かせる。
「面白そうだし、美味しそう！」
　ちょっと考えた後、寧々子は深呼吸して、大きな声を張り上げた。
「男子諸君～！　もし半分分けてくれるなら、ほっぺにチューしてあげちゃうぞ～！！」
　おおっ、とどよめきが起こり、皆の視線が寧々子に集中する。
「え、誰？」
「へえ、可愛いじゃん」
　お茶目なお姉さんのいたずら心に皆の反応は好意的で、ヒューヒュー、と口笛を吹く男子もいた。
（自分でもチューをご褒美なんて思い上がりかなーって思ったけど、盛り上がったからいいや。わー、誰あれって視線がすごいなぁ）
　寧々子は少し照れながら頭をかく。

　そこへ、ロープを掴み損ねた碧南が落ちてきた。
　マットがあるので衝撃は和らげれる。
　はずんで起き上がった碧南は、悔しそうに上を見上げて立ち上がった。
　コメディーエアーの影響か、ダメージは気にならない。
「うーっ、こんなことじゃ負けないわよ」
　そんな姿を見て寧々子は思う。
（あ、でも個人的には女の子に勝ってほしいなぁ。かわいい女の子が半分こしてくれるのもいいなー……）
　寧々子はもう一度声を上げた。
「えっと、勝ったのが女の子なら、ご希望の有名スイーツなんでも奢っちゃうよ！　もちろんチューでも可！(笑)」
　またどよめきと笑いが起こる。
「え、有名スイーツ？　このレースに勝ったらってこと？」
　ロープに手をかけた碧南の耳がダンボになる。
「こうしちゃいられないわ。何度でも挑戦するんだから！」
　気合を入れて碧南は再び壁を昇り始めた。　

（……あの異様に張り切り始めた女子はどっちが目的なんだろ、スイーツとチューと）
　碧南の姿を見ながら寧々子はそんなことを思う。
（賑やかしとしてはこんなものかなー、なんちゃって）
　そうして勝負の行方を見守るのだった。