ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

　勇生と同じく、武道も変装はお手の物だった。
　伊達眼鏡をとって、髪を後ろに撫でつける。
　オールバックにしただけで、随分印象が変わる。
　明るい表層を拭った、武道のもう一つの顔。
　暗くて脆い、あやうい部分が、そうすると際立つ。

（寝子島神社を目指すか……）
　明かりの少ない路地を選んで、武道は駆け出す。

　ガラスに映った自分の姿を、ひどく遠く武道は感じる。
　サヴェッジ・ナイト。残酷な夜。
　いずれ自分も、この残酷な夜に染まり、殺人すら躊躇わぬ男になるのではないか。
　あの写し姿のような、異様な男になるのではないか。

　変装の完全さが、武道に恐怖を覚えさせる。
　今の自分を見ても、自分であることの判別などつかないだろう。
　もしかして、本当の自分など、とっくにいなくなってるのではないか……。

「アレに見えるは武道ちゃんセンパイ！？」
　ふぉぉぉと歓喜の雄たけびをあげ、真央は走りながら武道に挨拶する。
「ヤア、真央ちゃん！」
　反射的に挨拶する武道。
　一瞬の邂逅。

　なぜ一瞬でバレてしまったのだろう。
　それはそれで問題があるような。

　――見事な変装だねぇ、武道くん。

　背後から声を掛けてくる日暮ねむるに、なぜか安堵する武道。