お見合い狂想曲っ！｜リアクション

お見合い狂想曲っ！

　こちらは、店の片隅の大テーブルに陣取った桜栄あずさ理事長と愉快な仲間たち。
「よーく見ると、相手の高良さんって人、なかなかのイケメンよね……」
　あずさに連れてこられた羽生碧南は、遠目から高良を見て呟いた。おごってもらえてラッキー、などと思ってやって来たが、どうもトラブルが発生したらしい。大橋先生が到着するまでの間、なんとか時間稼ぎしないと―――
「高良さん、いかにも落ち着いた大人って感じね……そう、この前攻略したばかりの乙女ゲーム『アワコイ－淡恋物語』の攻略対象の一人、浅見さんがこんな感じで……」
　脳内が盛大に脱線したので、碧南は思いっきり頭を振って雑念を飛ばした。
「どう時間稼ぎしようかしら？」
　碧南は理事長に向かって答えた。
「ここはベタだけど、誰か知り合いの人物と勘違いして、こちらから話しかけるシチュエーションで攻めてみるわ」
　時間稼ぎ作戦の第一弾として、碧南は立ち上がった。

　まずは高良の方をちらちらと見て、それからじっと見る。先方も碧南の視線に気づいたのか、怪訝な顔をしている。そこに、碧南の方から駆け寄った。
「おじさん、久しぶり！」
「……えっ？」
　碧南は、久しぶりに大好きな親戚に再開したときの懐かしげな表情を浮かべている。
「私のこと覚えてない？」
「いや……人違いでは」
　困惑する高良だったが、碧南は構わず話し続ける。
「ふふ、覚えてないのも無理ないわね、私が小学５年の時に海外へ引っ越したから……」
「私は海外に住んだことはないよ……」
　高良の反論はスルーされた。
「え……本当に覚えてない？おじさんの弟の娘の羽生碧南！よく横浜の家に遊びに行ったじゃない！」
「あの、私に姪はいないよ……」
「本当に、本当に覚えてないの？ ……そんな……」
　碧南の声が涙声になっていく。店内の他の客の視線を感じ、人の良い高良は目の前の人違い少女を冷たく扱えなくなってしまった。
「えっと……。碧南ちゃん、か。お父さんは元気かい？」
　高良が話に付き合ってやる構えを見せたのを聞いて、隅のテーブルの面々はひとまず胸をなでおろした。

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