あつまれ☆サンマ幼稚園｜リアクション

あつまれ☆サンマ幼稚園

　島岡先生と並んで、修はせっせとプリントを運ぶ。
　真剣な修の姿に、島岡先生はあたたかな微笑みを零した。と、その時。
「せんせー！」
　外廊下を歩く島岡先生の姿に気づき、ぶんぶんと手を振りながら明るい笑顔で駆けてきたのは、先ほどまでひとり猫と戯れていた美咲紀である。
　その胸には、ちょっと不遜な感じの顔をした茶トラの猫が抱かれていた。
　動物好きの修の表情が、ぱあと輝く。
「あらあら～。可愛い猫さんですね～」
「ですです！　せんせーもいっしょにまふまふするです？」
　言って、美咲紀はぶすっとした表情の、けれど人慣れした様子の猫に頬ずりをした。
「ふわぁー、まふまふやー」
「……なんで関西弁？」
　首を傾げて思わずつっこみを入れる修。
　そんな修のことを、茶トラ猫は「お前も撫でろ」と言わんばかりの眼差しで見据える。
（何だかちょっと生意気そうだけど……でも可愛い）
　修は空いている方の手をそろりと伸ばすと、猫の頭を優しく撫でてやった。
　茶トラ猫の瞳が、気持ち良さそうに細められる。
「先生、この子、かい主を探した方が良いのかな？」
「ええと～、首輪をしていないので……多分、野良ちゃんだと思いますが～」
「のらねこ？　お家はどこかなあ？」
　修が本気で心配しているのに、猫はどこ吹く風であくびを一つ。
　そうして、修の服のポケットを肉球でちょいちょいと示した。
「えっ？　この中？」
　修のポケットには、食べ切れなかったおやつのクッキーが入っている。
「でも、これはニンゲンのおやつだよ？」
「ハッ！　わたし、にゃんこのおやつ持ってるのです！」
「わ、本当に？」
「ふふー、ひみつでコッソリ持ってきたのですよ！」
　猫を抱いたままで、えへん！　と胸を張る美咲紀だが、秘密はばっちり島岡先生の耳にも入っている。
　けれど先生は、美咲紀の言葉に気づかなかったふりをしてくれた。
「いっしょにあげるのですよ！　ポケットに入っているので出してくださいですです！」
　猫を両手で抱えるのが精一杯（しかもちょっぴり腕がぷるぷるしている）な美咲紀にそう言われたものの、修の方もどう頑張っても片手はプリントでふさがっていてやりづらい。
「あっ、プリントは先生が持ちますねぇ」
「だ、だけど……」
「もう充分助けてもらいましたから、大丈夫ですよ～」
　その言葉に甘えて、修は先生に丁寧にプリントを渡すと、美咲紀のポケットから煮干しを取り出した。
　差し出されたそれを猫は大層美味しそうに平らげて、修の顔をお礼とばかりに舌で舐める。
「ははは、くすぐったいよ」
「わたしも！　わたしもあげるのです！」
　こくりと頷いて、修は美咲紀の手から猫を受け取ってそっと抱き締めた。
　ポケットから煮干しを取り出した美咲紀がそれを猫の口に、
「はむっ」
　運ぶ前に、自分のお口におもむろに突っ込む。
　猫があんまりにも美味しそうに食べたものだから、ちょっと興味が湧いてしまったのだ。
　５歳児の行動って読めない。
「うぇぇぇ、あんまりおいしくないー！」
　苦い顔になる美咲紀のことを、修の腕の中の猫が呆れたような表情で見つめていた。

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