黒い指先　――透明な檻――｜リアクション

黒い指先　――透明な檻――

●再び旧市街

　新井すばるは街の人達から、根気よく情報収集に努めた。
　そのうちに、連れ立って帰ろうとする幼い兄弟から、気になる話を聞いた。
　一週間程前、弟の方が不審な人物から、声を掛けられたという。
「んとね、変なおじさん……。すごくキョロキョロしてた。僕、おじさんが落としたボール、拾ってあげたよ」
「へぇ、その時はボク一人だったのかな？」
「うん、兄ちゃんがトイレ行ってて、いなかった時だよ」
「そっか。それから、どうしたのかな？」
「んーと、猫の名前聞かれたから、教えてあげた」
「猫？　ふむ、それから？」
「それからは……」
　男の子は、途方にくれた顔をした。
「わかんない、忘れちゃった……」
「コイツ、俺が帰って来た時、道の真ん中でぼーっと突っ立ってたよ！」
　お兄ちゃんが補足する。
「道の真ん中？　それは危ないな」
「うん、俺がこうして揺さぶってやったんだ。こんなとこにいたら、車に轢かれちゃうぞって」
　弟の肩をゆさゆさしながら、お兄ちゃん。
「そしたら、コイツ俺を見てすっげー驚いた顔してた。どうやって、目の前に出てきたのって」
「おじさんは、その時は一緒にいたのかな？」
「ううん、お兄ちゃんと僕だけ」

　何かが、おかしい……。
　子供には、記憶がない。質問をされた以外に、何かをされたという形跡もない。
　ただ気づいたら、道の真ん中に立っていたというだけ。

「これは……ひょっとして」
　いわゆる一般的なロリショタ変質者、というよりは。
　精神系のろっこんを巧みに悪用し、事故を誘発して子供達を傷つけようと目論む、異常者による……。

　快楽殺人未遂？
　ちくわホームズの推理やいかに？

　双葉仄は携帯で一人で遊んでいる子供の振りをしながら、ネットで情報を集めていた。
　他のメンバーは【Ze Pet】へと、行ってしまっている。

　ネットの探索結果はどうかというと、子供達はほとんどネットに馴染みがないせいか、書き込んでいるのは専ら子供達の母親だ。
　おいしいお店や、かわいい中古の子供服。料理や教育、家族や友人関係の話題が多く、なかなか探している情報にたどり着けない。

　と、仄の瞳が大きく見開かれた。
「ここでもセブンか……」
　ごく一部の古い書き込みだが、挙動不審の男が、自分が怪人セブンだと子供にふかしていたらしい。
「怪しいな。やはり、もれいび狩りと変質者事件は繋がっているのか？」
　これだけでは、何とも言えない。仄は取りあえず、得た情報を空音達と八神修へと送った。