【お三夜】ワッショイ！寝子島お三夜まつり！｜リアクション

【お三夜】ワッショイ！寝子島お三夜まつり！

　額の汗を拭って、横嶋下心は三夜湖を臨む。
　三夜湖へと一番乗りしたのは、下心たちが担いだシーサイドタウンのお神輿だった。
　スポーツドリンクをぐびぐびと喉に流し込めば、生き返るような心地がする。
「くーっ、頑張った後のこの一杯が美味い！　最後まで頑張ってよかった！」
　なんて笑み零す下心の笑顔はまるで生まれ変わったかのような爽やかさだが、
「あっ、そこのおねーさーん！」
　お神輿を目的地まで運び終えて休憩する女性たちの姿を見留めるや否や、その瞳に桃色の炎が宿る！
「その素敵な乳尻太もも見せて揉ませて触らせて！　もっとエロい事させて下さい！！」
　とか何とかエロス魂を炸裂させて、ウボアー！　とふっとばされるところまでがお約束。

　下心とは少し離れたところで、トワ・E・ライトフェロゥもまた三夜湖をその瞳に映す。
「トワ一人ではみゃーこに行けなかったかもしれないにゃ。中々の大冒険にゃん……」
　楽しかった道中での出来事をしみじみと思い出し、口元を緩めるトワ。
　はぐれてしまった護衛役に今日の冒険の話をしたら、一体どんな顔をするだろう？
「勿論、帰りも楽しく帰るにゃー！」
　神事をすべて終えるまで、きっとまだまだ、素敵なことがあるに違いない。

　三夜湖のほとり、橘明里の手作りお神輿の周りにはちょっとした人だかりができていた。
「好きな子をどうぞですなの！　あっ、ウミネコもぜひぜひ！」
　明里、お神輿にたっくさん飾っていた粘土細工の猫たちを配っているのである。
　彼女の個性的なお神輿を目に留めていた人は少なくなく、欲しい！　という人たちは後を絶たない。
　お気に入りの猫（あるいは魚やウミネコも）を選び取って人々が笑みを零せば、明里の顔にもとびきりきらきらとした笑みが浮かぶ。
（みぃんなみぃんな、心から楽しんでくれたら、がんばった猫天使のあかりはとってもしあわせですなのー！）
　にこにことそんなことを思う明里の元へと、またひとり来訪者が顔を出した。
「明里！　お疲れさまっ！」
　明るく声をかけるのは、出発前にも言葉を交わした篠原翠響だ。
「あっ、翠響ちゃん！　一等賞おめでとうなのよ！」
「ふふ、ありがと！　すっごく楽しかったよ！」
　白い歯を零してVサインを明里へと向ける翠響。
「へええ、人形、皆にプレゼントしてるんだ」
「そうなんですなの！　翠響ちゃんも見ていってほしいですなのよ！」
　明里のお神輿の前にしゃがみ込んで、翠響もいずれも世界に一匹だけの猫たちに目移りしきり。
　真剣なその姿に明里はまたにっこりとするのだった。と、そこへ、
「賑わってるな。あ、さっきはお疲れさま」
　翠響の隣へと腰を下ろして明里に声を向けたのは、津島直治。
　次々に人が訪れ代わりに猫は減っていき――じきに、明里のお神輿は空っぽになってしまったが、明里の心には、ほっこりとあたたかな充実感が残った。

　カメラの画面の中、道中を共にした皆の笑顔を見遣ってエヴァ・ブランシェは目元を柔らかくする。
「記念撮影、できてよかった。いい思い出になったわ」
　エヴァが音頭を取って共にお神輿を担いだ仲間たちと一緒に撮った写真は、今日という日を飾る幸せな宝物になるだろう。と、その時だ。
「……あ、みっちゃん先生」
　ふと顔を上げると、手に握った『何か』を見つめて頬を緩めている久保田美和先生の姿が。
「あれは……お守り？　あの様子だと、無事にもらえたのかしら？」
　近づいて、声をかけるエヴァ。
　すると、みわちゃん先生はゆるっゆるの笑顔のままでエヴァへと「聞いてよー」と嬉しそうに声を零す。
　すっかりテンションが上がってしまっているみわちゃん先生のながーい話を集約すると。
「えーっと……道行く男の視線が、先生に釘づけだった？」
「そうそう、そうなのよエヴァちゃんっ！！」
　このお守りすごいっ！　とみわちゃん先生ははしゃいでいるが、
（それはお守り……というか彼氏欲しさに鬼気迫る姿になってたからじゃ……）
　と、エヴァの胸には確信めいた感想が湧く。
　けれど、興奮に頬を上気させているみわちゃん先生にそれを伝えるのは何だか忍びなく。
（……言わない方が良さそうかしらね？）
　というわけで、エヴァは胸の内に一つ、優しい秘密を抱えるのだった。