【お三夜】きぐるみづくしのお猫様｜リアクション

【お三夜】きぐるみづくしのお猫様

　渡部が語った事情はこうだった。
　ある日、寝子島神社へ来ると、野良猫の一匹がくしゃみをしていたのだと。
　寒がりの渡部は、猫たちも寒いだろうと思い、服を作ることにしたらしい。
　もともと、高校では男性ながらに家庭部に所属し、大学でも手芸部の部長を任された事もある。
　裁縫の腕には自信があった。
　お三夜も近い事だし、暖かくて愛らしい着ぐるみにしようと決めた。
「なるほどね。ただ、今のままだと寒さは防げても、こいつらの生活に不便なんだ。爪がとげなかったり、木に登れなかったりも出来ない。だから皆、こいつらの着ぐるみを脱がせて回ったんだ。気持ちはよくわかるし、もう少し工夫できないか？」
　刀が脱がせて回った理由と、着ぐるみの改良を求めてみる。
「この服だと、野良は餓死してしまうんだよ」
　修がはっきりと言い切り、渡部もはっとする。
　この寝子島神社は、たまたま野良猫に餌をあげる人が多めだったから間に合ったものの、もしもそういう人たちがいなかったら、野良猫たちは暖かさと引き換えに命を失っていたかもしれない。
　渡部はがっくりと膝をついた。
「俺は、何の役にも立たなかったのか……っ？」
「気持ちはわかるけど、こういうことしちゃだめなんだよ。ね？」
　だから別の方法でどうにかしてみようよと提案する天音。
「真央ちゃんは、提案したいのだっ。合成でもこんなに可愛くなるのだっ」
　寒さは防げないけど、愛らしさは抜群。そしてお猫様達も困らない。
　そんな真央の提案に、絶望しかけていた渡部は思わずプッと吹き出す。
「くしゃみをしていた猫はいまここにいるかい？　俺で良ければ診察するよ」
　ジェレミアが提案する。
　無論、無料で診るつもりだ。
「あんた、獣医か？　くしゃみをしていたのは、ぶち猫だ」
「もしかして、すこしふとっちょな子ですか？　それなら、朝方くしゃみをしていたので、私の部屋に連れてきていました。こちらです」
　聖がジェレミアと、皆を部屋に案内する。
　全員彼女の部屋に入るには少々手狭なので、大部屋にぶち猫と共に移動する。
「なるほどね。いわゆる猫風邪をひいているようだ。でも大丈夫。すぐに治る」
　診察を終えたジェレミアが太鼓判を押す。
「一応、心配なら明日にでも薬を持ってくる。聖さん、君は明日もここにいるかい？」
「ええ。私はこちらに住み込みをさせて頂いていますから」
「了解。渡部さん、君はこれで安心したかい？」
「ああ、大丈夫だ。もう二度と、着ぐるみを着せたりはしないさ」
　渡部のその言葉に、翠響は「えっ」と声を上げる。
　皆が振り向いた。
「だって、こんなに丁寧なつくりなのよ？　職人技だよね。裏地まで付いてて、ほんとにあったかそうだし。ただちょっと脱ぎきがし辛いけど」
　ちょこっと風邪気味なぶち猫を抱っこして、翠響は名残惜しそうに撫でる。
　彼女の家では猫が飼えないのだ。
「でも暑くても自分じゃ脱げないから、やっぱり着せれないんじゃないかなぁ？」
　ふにふにと、雅人のあほ毛が左右に揺らめく。
「それなら、さっき御剣さんが言ってたように、きちんと改良してから、寒い日だけ着せれるようにすればいいんだよ」
「そうですね。特に冷えるのは朝晩です。それなら、夕方に私が着せて、朝脱がせてあげることは可能ですよ」
「一人じゃ大変だから、俺も手伝いに来るねぇ。一緒に着せれば早いと思うなぁ」
「渡部さん。改良をお願いできるか？」
　刀の言葉に、渡部は力強く頷いた。

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