紫陽花屋敷の噂｜リアクション

紫陽花屋敷の噂

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「あ、ちょっとまってー」

携帯電話のバイブレーションに探索の手を止める葵。
エヴァと圭花はそれぞれ探索を続ける。

「もしもしー？」
『三ヶ島か？』
「そうだよー」

電話をかけてきたのは図書室での調査を終えた修だった。

『さっきもらったユニフォームの写真で、ひとつ手がかりをつかんだ』
「お、本当にー？聞かせてもらえるかなー」
『ああ。確定ではないが彼我花陽は中学時代、日向陽という名前で登校していたようだ』
「んんー？名前が違うみたいだねー」
『おそらく離婚か結婚……苗字が変わるというのはその２つくらいだろう』
「うーん、そっかー。なるほどねー……」
『だからもしかしたら、紫陽花屋敷にいるのは……』
「あ、待って待って」

一度電話越しの会話をとめると、葵は目の前のそれににやりと笑う。

「これはホラーゲームによくある追跡者かなー？」
「そんなに可愛いものじゃあないんじゃない？」
「剪定はさみ、ね」

３人の目の前には、剪定はさみを手にして迫る黒い人影。

「会話の余地は、なさそうねっ」

突きに似た攻撃をさらりとかわしながらエヴァが呟く。

「もう少し、話の分かる相手がよかったわ。文字通りにね」

瞬間的に開いたはさみに、木片が挟み込まれる。
閉じられなくなったはさみにもたつく人影。

「少しの間、援護をお願いね」

圭花はそう言って眼鏡を外す。
ろっこん「ガレージランド」を発動し、人影のはさみを分解しようと試みる。
だがはさみに触れようとしたところで人影が察し、はさみそのものを振り回して圭花を吹き飛ばす。

「あ、きゃっ」

眼鏡を外していたせいで一歩反応の遅れた圭花は葵の足元にしりもちをつく。

「大丈夫！？」

すぐに葵が追撃を防げるようにと圭花と人影の間に割って入る。
人影は再び、葵の方へはさみを振り上げた。

刹那、人影が葵の視界から消える。

「２人とも、今のうちに部屋から出て！」

呆気にとられている葵にエヴァが指示を飛ばす。
ろっこん「タービュランス」で人影を壁際まで吹き飛ばしたのだ。
壁際でうずくまる人影を睨みつけながら、２人を廊下に出すエヴァ。

「……手荒なことはしたくなかったんだけれど」

そう呟いてエヴァは素早く扉を閉めた。

『…ま、……三ヶ島！』
「うぉっ、あー、はいはいー？」

通話状態のままだった携帯電話に応答する葵。
電話越しに倒れこむ音などが聞こえていたのか、修が心配そうに怪我はないかと尋ねてきた。

「ん、大丈夫ー。それより、ごめんねー。続き、いい？」
『ああ。紫陽花屋敷にいるのは、父親なんじゃないか？』
「父親……？」
『これは俺の推測でしかない。が、彼我花姉弟の情報と一緒に家主の情報も探してみた方が良いと思う。表札なんかは出てなかったのか？』
「あー、雨で視界が悪くて、そこまでは見てないなー……」
『こっちでまた何か見つかったら連絡する。怪我しないようにな』
「うん、わかったよー。八神くんありがとー」

修との通話を切り、先ほどの人影を思い浮かべる。

「……父親かなー？いやそれとも部屋に人形がいっぱいな古城の庭師のほうかなー」
「庭師……そうね。なんらかの形でここの紫陽花を手入れしていた人物だと思うわ」

圭花が外していた眼鏡をかけ直しながら答える。
殴られた部分は大した傷にはならなかったようだ。

「それにしても、謎だらけね」

エヴァは扇子を開くと、

「別の部屋で一度待機しましょうか」

そう言って向かいの部屋の扉を開けた。