紫陽花屋敷の噂｜リアクション

紫陽花屋敷の噂

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「お邪魔しまーす」

未来廻は雨を避けるように屋敷内に足を踏み入れる。
薄暗いながらも整理されているそこは、一般家庭ですと言われても違和感がないように思えた。

「い、一応武器もあるし、大丈夫だよね」

未来廻の手には真っ赤なピコピコハンマーが握られていた。
それを両手で握りしめて慎重に階段を上って行く。

寝室の前に差し掛かったところできぃ、と扉の開く音がして歩みを止めた。

寝室の扉が開き、真っ黒の人影が剪定はさみを片手にゆっくりと姿を現した。
人影は未来廻に気付かなかったようで階段を下って行く。
未来廻はほっと息をつくと、寝室の扉の前にポストカードが一枚落ちているのを発見した。

「なんだろう……」

大輪のひまわりが描かれたポストカードで、薄暗い中で差出人までは読み取れなかった。
しかしよほど大切に持ち歩いているのか、カードの端が少しよれていた。

「あ、頑張れば読めるかも。えっと……お父さん、へ……？」

そこまで読んだところで背後に気配を感じ振り向きざまピコピコハンマーを振りぬく。
ハンマーを持つ手が剪定はさみにこすれ、赤くかすり傷をつくった。

「こ、こんなのいるなんて聞いてないわよっ」

人影が体勢を崩しているうちに近場の部屋に入り鍵を閉める。

扉の影からちらりと伺った時、人影は落としたポストカードを大事そうに拾い上げているところだった。

＊

「そのあと出会った丁香花さんに手当をしてもらって、部屋の中でほとぼりがさめるのを待ってたの」
「日向、という苗字は向日葵(ひまわり)に通ずるところがあると思いますの。無理やりではありますけど、そうすればしっくりくるのではないでしょうか？」

未来廻の話に続いて、リラが推測を述べる。

「ひまわりの花言葉はあこがれ、熱愛。紫陽花は強い愛情、移ろ気。彼我花、もとい彼岸花は悲しい思い出、独立。
こじつけで考えてもここまで花言葉と状況が一致する例はなかなかないのではありませんか？」
「ひまわりの名を持つ愛にあふれた家族が、やがて独立し彼我花の姓を名乗るようになる。１人になった父親にとってその姓は悲しい思い出そのもの。
そして、屋敷に咲く紫陽花は分かれた家族への強い愛情……といったところでしょうかねぇ」

礼二がこじつけを繋げてまとめる。
無理やりではあるが、そう考えるとしっくりと理解できるような気がした。

「行方不明になられたご姉弟は元々はここの住人であったのだと思います。同じ場所で咲き続けたいのならば、我々を呼ぶ必要は皆無。
見て貰いたいだけならば、邪魔をする必要もございません。ならば、あの人影は「花」を守りたいだけなのかもしれません。
彼女達をここに縛りつけたい存在……それがあの人影ではないか、と思うのです」
「死体についてはどう思う？」

煉がリラに問う。

「死体、という形ではここにはいらっしゃらないと思うのです。……赤い紫陽花を咲かすには土壌をアルカリ性に調整する必要がございます。
そして、主な道具は石灰などのカルシウムが含まれた粉状のものを使用しますわ」
「なるほど。死体そのものではなく、骨にしてしまってから土壌調整に使用された可能性がある、ってことか」

リラの推理に煉が頷く。
どうやら、互いに疑問点は解消されたようだ。

「問題は、この不思議な現象をどうするか、ってことだよね」

米太郎が呟く。

「丁香花さんが言うように、紫さんたちをここに縛り付けているのがあの人影なら、僕らはあいつをどうにかしなきゃいけないんじゃないかな」

正義感の強い米太郎の言葉に一同が頷く。

「ひとまず、遭遇率の高かった裏庭に回ってみようか」

武道を先頭に、ぞろぞろと移動を開始する。

紫陽花屋敷とのお別れも近い。