鳥さんとのひととき｜リアクション

鳥さんとのひととき

　１１

　夜の近いこの時間、薄暗い道を桜月は歩いていた。学校から帰ると彼女は服を着替え、毎夜、日傘を持って散歩をしている。今日は、その散歩コースを小鳥カフェ行きにしてあった。シーサイドタウンに鳥とのふれあいが楽しめる鳥カフェがあると聞き、何かデザインのヒントが得られるかもしれないし、ちょっと行ってみようと思ったのだ。
（鳥とのふれあいか。他の動物よりも機会が少ないし興味あるな）
『ＴＡＢＥ＝ＴＹＡ＝ＤＡＭＥ』の扉の両脇には、おしゃれな装飾のライトがあった。それが、オレンジの色味を帯びた柔らかな光を放っている。
　夜バージョンの雰囲気に変わっている店の中に入ると、「うわ、これは凄いな」と思わず声を上げていた。
（インコがいるよ。羽根の色が綺麗だな～）
　こういうのを見ると、デザインの色使いとか新しいイメージが湧いてきそうだ。月は将来、デザイナーになりたいと思っている。
「いらっしゃいませ～」
　店の空気感とマッチした感じの柔らかい女性が出てくる。頭にボタンインコを乗せているのが少々気になるその女性は、店の説明を簡単にすると月に確認してきた。
「ホールと個室、どちらにしますか～？」
「えーと……」
　リラックスしてデザインを考えられるのは、個室の方だろう。
「個室でお願いします。鳥さんは……あの子で」
　両親の色が違うのだろうか、緑と黄色が混じっているインコがいた。頭と体の色が違うのは普通だが、体の色が混じっているというのは珍しい。
　綺麗だな、と純粋に思った。
　インコと共に個室まで案内され、注文を聞かれる。テーブルに座った彼女は、メニューを一通り見て注文を決めた。カフェインが危険と書いてあるから――
「ハーブティーをお願いします。後、フルーツ盛り合わせを。このフルーツは、インコに食べさせても大丈夫なんですか？」
「はい。アボカドとかインコが食べちゃいけないものは入れていないので、大丈夫ですよ～」
「じゃあ、これをお願いします」
「はい～少々お待ちくださいね～」
　風羽がいなくなると、月はメニューに書いてある『お約束』をもう一度見直す。そこには、フンについての注意事項があった。
（そういうリスクは当然あるね。服が汚れるのは嫌だし、少しズルをしようか）
　そう思っていると、風羽がハーブティーとフルーツ盛り合わせを持って戻ってきました。
「お待たせしました～」
　注文の品が揃い、店員がもう来ないことを確認すると、月はろっこんを発動した。
（出ろ）
　強く念じると、彼女の足から伸びていた影が起き上がってきた。立体化したのだ。
「！！！！」
　フンをされたらこの影で防ごうと思ったのだが、起き上がってきた黒い人型にセキセイインコは驚いた。驚いたなんてものではなく、パニックになって個室の中を「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ！！！」と叫びながら飛び回った。
　影に意思がなくとも、怖いものは怖い。店員に怒られるかな、とは思ったが、インコがここまでパニックになるとは思わなかった。
　インコを怯えさせないように気を付けようとは考えていたが、完全に怯えの域を超えている。
「わっわっ」
「どうしました～！？」
　インコの大きな声が聞こえたのか、若干慌てた様子で風羽が個室に入ってくる。
「あ、いえ、すみません。今消します」
　月はろっこんを消した。
「ろっこんですか～？」
「はい……」
「気を付けてくださいね～」
　窘めるように言って、風羽は個室から出ていった。
　ほっと息を吐きながら、月はハーブティーを一口飲んだ。それから、フルーツをセキセイインコに差し出す。
「君も食べるかい？」
　インコはしばらくフルーツからも逃げ回っていたが、安全だとだんだん分かってくるとゆっくりと警戒気味に近付いてきた。一口、フルーツをかじる。
　テーブルに置いたフルーツを食べるのにインコが夢中になりだすと、月は持ってきたノートを広げた。
「この羽根をイメージしたドレスは良さそうだ」