鳥さんとのひととき｜リアクション

鳥さんとのひととき

　１　

（休日にパワースポットに１人で行くなんて、私ってなんだか大人っぽいかも！）

　旧市街にある寝子島神社にお参りに来た時高クレオは、気分良く拝殿に向かっていた。パワースポットと呼べるかどうかはよくわからない場所だが、神社なんだからきっとパワースポットだろう。
　鈴を鳴らしてお賽銭を投げて手を合わせ、丁寧にお参りをする。
　目を開けると、クレオは境内の探索をしようと散歩を始めた。冬も近いこの時期の朝の空気は清涼で、気持ちがいい。砂利や舗道の上をゆっくりと歩いていると、野良猫や野良鳩が思い思いに過ごしているのが目に入る。
（……『寝子島神社』って名前だし、猫が多いのかなって思ってたけど、以外と鳩もちらほらいるのね）
　今朝、鞄の中に入れてきたパンのことを思い出す。お昼に食べようと思っていたのだけど。
「この子たち食べるのかな？」
　鞄から食パンを出して、適度な大きさにちぎってポイポイと投げてみる。すると、ぽっぽぽっぽと首を前後に動かして歩いていた鳩達がおもむろに近付いてきた。投げたパンの欠片を啄み、食べ始める。
「おおー、食べてる食べてる！　どんどんお食べー！」
　面白くなって、クレオはパンを細かくしては投げ、細かくしては投げていく。
　くるっくーくるっくーばさばさばさばさ。
　食べ物を見つけた鳩が迷わず飛んできて、到着した鳩に片っ端からパンを放る。ついつい夢中になって、クレオはパンを食べる鳩ばかりを見て周りが見えなくなっていた。
　持ってきた食パンがなくなって、一息つく。
「ふぅ……って、うわああ！？」
　我に返ったクレオは周囲を見て驚きの声を上げた。
「いつのまにかクレオが鳩に囲まれてしまった！！」
　散歩していた時の印象よりも、神社に居た鳩は多かったらしい。３６０度、ぐるりと鳩に囲まれている。鳩。鳩。鳩だらけ。
「調子にのって食パンぽいぽいしてたから？　も、もうキミたちにあげる食パンはないんだよう！！」
　慌ててそう言うが、鳩はまだないかまだないかと包囲網を狭めてくる。靴をつっついたり、鞄や手元を見上げていたり。よっぽどこの境内で可愛がられているのか、随分と人に慣れている。『鳩にエサをあげないでください』ならぬ『鳩にエサをあげてください』と書かれた看板がないかと思わず探しかけるが、勿論、そんなものはどこにもない。
（うう、この子たちすごい寄ってくる……）
　正直、ちょっと怖い。
　こうなったら――鳩には申しないけれど。
（脅かして隙をつくしか！！）
　クレオは足を上げ、力を込めて地面を踏んだ。
　すると、鳩達はばばばばばっと一斉に飛び去っていった。ほっとすると同時にびっくりさせたことを謝りたくなる。
「うわああん、鳩さんごめんねぇええ！！！」
　各々、手頃な場所に着地した鳩達に背を向け、クレオは叫びながら猛ダッシュして神社から脱出した。

（鳩に囲まれてビックリしたけど、これはこれで楽しかった……かも？）
　参道商店街に向かう道すがら、乱れた息を整えつつクレオは思う。そして、そういえば、と思い出した。シーサイドタウンに、変わった名前の小鳥カフェがあるということを。店名は――
「えっと、『タベチャッタ』……『タベチャダメ』？」
　正解である。
　中学生１人で行くにはまだちょっと勇気がいるけれど。
（いつか行けるといいな♪）
　そのお店には、どんな鳥達がいるんだろう。

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