裏腹な日｜リアクション

裏腹な日

●ルームメイトとの喧嘩

　放課後、桜花寮の一室。
　いつもは気が合うルームメイトの霧谷朧と蜂須賀ルドは、ちょっとしたことで諍いを起こしていた。
「おぼろがその気なら別にいいぜ。れいぞうこの中のおぼろのぷりん、俺が食ってやるからにゃ！」
　啖呵を切ったルド。そこまでは普通だった。
（くだらないケンカのはずだったのに今日は引けねえ……ルドなんてしらねーし！）
　ルドなんて……と言おうとした朧の口から飛び出したのは。
「ルドのこと大好きだし！」
　という言葉だった。
「え？」
　顔を見られるのが恥ずかしくて常に猫の着ぐるみの頭をかぶっているルドだが、室内なので素顔のまま、きょとんとした顔になった。
（何言ってんだ俺？）
　視線が怖く前髪で目を隠している朧の表情はわかりにくい。
（ただの言い違いだ）
　気を取り直して悪口を言おうとする朧だが。
「ルドがルームメイトで良かった」
　口から出る言葉はこんな具合だった。
（なんでこんなに気持ちが漏れるんだ？　ダメだ、こんなこと言ったらまたあの時みたいに……）

（喧嘩してるってのにどうしたんだおぼろー！？　突然のでれってやつかにゃ？）
　首をかしげるルドだが、そんなふうに言われては怒りは続かなかった。
（嬉しいこといってくれんじゃねーか。へへっ、そんなに言うなら許してやってもいいぜ）
　そう思って口を開いたルドの口から出たのは。
「俺はおぼろのこと大キライなんだぜ、あっかんべー！」
（にゃ、にゃ、にゃに言ってんだ俺！？）
　驚くルド。
（俺だっておぼろのこと好きなんだぜ、ずっと友達でいたいんだぜって言いたいだけなのによ……！　にゃんだこれ！？）

（ほら、やっぱり。そうだよな、元々俺なんていらない奴なんだ嫌われて当然だ）
　朧はかつて親に捨てられた。
　前髪で目を隠しているのも、自己否定感が強くて視線が怖いから。
　ずっと気持ちを押し込んできた。
　けれど、今は仲間の温かさを知ってしまったから……それがなくなる事が怖い。
（わかってる、わかってるから俺なんかにつきあわせて悪かった）
　そう言いたいのに言葉は反対の本音をどんどん紡いでいく。
「ルドと離れたくない、ルドとずっと友達でいたい、もう独りは嫌なんだ……だからお願い、一人にしないで……離れないで」
　涙が、こぼれた。
（なんで、なんで……止めなきゃ嫌われる）
　でも本音は止まらない。わからなくて怖くて涙が止まらずただ言葉だけが語っていた。

（あばばばおぼろ泣かないでくれよなんだぜ、俺だって大好きに決まってんだろだぜ！）
　ルドは慌てて、励ますために朧に抱きつこうとした。
　が、なぜか反対に頭をぐりぐりしてしまった。
「あいえええ！　なんで！？」
　その言葉に、ようやく朧は気づいた。
（もしかして神魂のせいで？　思ってることと違うことを言ったりしたりするのか？）

　ぐりぐりは痛かったが、触れたルドの手は温かかった。
　恐る恐る……のつもりが割と力強く、朧もルドの頭に手を伸ばした。
　ぐりぐり。
「っていででで、痛いぜおぼろー！　仕返しかー！？」　
　もう反対ではないルドの言葉を聞き、泣きながら朧は笑った。
（へへへ、にゃんか楽しくなってきたんだぜ）
　ルドも笑って言った。
「ったくよー、俺たちシンユウなんだぜ！！！」
「うん……ごめん。プリン、食っていーよ」
「いやいやおぼろが食えよ！」

（気持ちが溢れたのは恥ずかしいけど……それも含めて本当に友達になれた気がする）
　朧の涙は、いつか乾いていた。
　