裏腹な日｜リアクション

裏腹な日

●ラブコメじゃないのだ違うのだ

　呆然と三人を見送った修だが、現状分析をして思い至った。
（あー…何か逆を言う異変が起きてるのか。気の毒に……まあ、相手も裏腹になるから大事には至ら無いとは思うが……）
　神魂の持続時間が過ぎるまで家にいよう、と足を速めた修だったが。
　友人の後木真央と出くわしてしまった。
「修ちゃんすっごい元気そうなのだ良い事あったのだ？」
　真央は、自分の口から出た思わぬ言葉に硬直した。
（やべぇのだコレ何のろっこんなのだいや神魂？）
「元気そう？」
「うん、修ちゃんすごい楽しそうだったのだ」
　修は真央の固まった表情を見ながら考える。
（親友に裏腹を言うのは避けたい。なら、裏腹な言動しようとすれば本来の言動になるはずだ）
「修ちゃんだから大丈夫なのだ心配しないのだ」
「本当にそう思ってるのか？」
「うんそう思ってるのだ」
（いやいやいや、全然思ってないのだ真逆なのだ。大丈夫じゃなさそうだから声かけたのに……ひぃぃ）
　修はあえて反対の言葉を口にしようとした。
『慌てろ、大丈夫じゃない』
　すると、うまく反対になって本当に言いたい言葉を発することができた。
「落ち着け、大丈夫だ。神魂の異変だ。裏腹な言動をしてしまうんだ。だから、逆を言えばいい」
「逆？　くやぎ？　どういうことなのだー！」
　しかし肝心な真央は頭がショートしそうになり、理解していない。
　全速で逃げようとした真央は、修に突撃して思いっきりハグしていた。
（やべぇのだコレ好きだと思われるのだ違うのだ）
「だって好きなのだ」
　否定しようとするも、かえって逆効果に。
　修は注意深く行動をコントロールし、真央を抱きしめて優しく撫でた。
（違う～。修ちゃんが好きな人に一途なの知ってるのだ。友情ＭＡＸ尊敬してるのだ他人の恋路を本気で邪魔する気は欠片もないのだ）
「尊敬じゃないのだ友情じゃないのだ好きな……」
　真央は、持っていたタオルを思い切り自分の口に突っ込んだ。
（苦しいけど、これ以上やらかすよりマシなのだ）
「落ち着け、真央の混乱は俺はちゃんとわかってるから」
　優しくなだめる修だが。
　真央は、逃げようと思うほど逃げたがらない足を自分で蹴り飛ばしながら走りだした。

　その様子を、少し離れたところでヨハン・プレストンが見ていた。
（なんだ拉致か？　痴話喧嘩か？　まあ俺には関係ないしこれ以上関わりたくない……）
　人のことなど関心がなかったはずのヨハンは、今朝から勝手に体が動いてしまい人助けに走っていたのだった。
「大丈夫ですか？」
　結局、苦しそうな真央に声をかけてしまった。
「モガ……？　よっひゃんセンファイ」
　真央は口からタオルを取り出した。
「後木か」
　絵本を作った時の知り合いとわかって、ヨハンは一瞬葛藤した。
「大丈夫か？　何があったか聞きたくないが」
（センパイに心配はかけられないのだ）
　そう思ったのに、
「大変なのだ、助けて欲しいのだ」
　と言ってしまってから真央は再び口を押さえ、タオルを口に突っ込む羽目になった。
「おい……よくわかるから、俺に助けさせてくれ」
　心と違う言葉が出る状況に薄々気づき始めたヨハンだが。
（俺はいったいどうしたいんだ……）
　自分の気持ちがわからなくなってきた。
（恥ずかしすぎて寮に帰れないのだ、センパイ優しいのだ）
　そう思った真央の足はどんどん進みだした。
　それを追いたくなってきたヨハンの足は、逆方向を向いて歩き出した。
「別に気になんてならない」
　そう言ったヨハンの言葉は、今日で一番自分らしかったはずなのに、何故だか心がざわめいた。　
（よっちゃんセンパイごめんなのだ……）

　あっさり寮に帰り着いた真央は、今日のことは寝て忘れようと思った。
　そこへメールが届いた。
（……！　修ちゃんからなのだ）
『大丈夫、気持ちと反対のことを言ってるのはわかってるから。離れたりしないよ』
　優しい言葉に安心したはずなのに、なぜだか目が冴えて一晩寝られなかった。
　

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