裏腹な日｜リアクション

裏腹な日

●いつものです！

「おはようございます、尚輝先生」　
　いつものように、御巫時子は五十嵐先生に手作りのお弁当を届けに行った。
「はい、どうぞ……あら？」
　はずだった。
「……カップラーメン？」
　自分が取り出したものに呆然とする時子。
（この前「お弁当が美味しくて嬉しい」と言っていただけて嬉しかったから、いつも以上に早起きして作ったのに）
「お弁当、寮に忘れてきてしまったようです……」
（食べていただきたかったです……）
　時子はため息をついた。
　しかしカップラーメンが主食な五十嵐先生はむしろ嬉しそうだった。
　時子は肩を落として部屋を出て行った。

　昼休み。今朝の失敗を挽回すべく再び時子はやってきた。
「いつもの淹れますね」
　先生の好きなコーヒーを淹れるはずだった。
　しかし、にっこりと時子が五十嵐先生に渡したのは緑茶。
「ちょっと渋いですね」
「えっ？　あの、入れなおします」
　慌てて急須を片付けた時子は、次はなぜか茶道部に向かい、抹茶を立てていた。
　五十嵐先生は大きな茶碗を三回回し、啜った。
「今度こそ！」
　紅茶・甘酒・ココア・青汁……
　何度試みても、ことごとくコーヒー以外の飲み物を出してしまう。
　ついに時子はコーヒーを断念した。
「あ、あの……カップ麺用のお湯を沸かしてきます」
　戻ってきた時子は、シーフードヌードルにヤカンからお湯を注いだ……はずが。
　湯気を立てている白い液体は牛乳だった。
「どうして……」
　頭に血が上り暑くなった時子は、少し空気の入れ替えをしようと窓へ向かう。
　しかし、全ての窓を全開にしてしまい、寒風が教室を吹きぬけていった。
「珍しいですね」
　いつもの調子で五十嵐先生は言う。
「尚輝先生、すみません……」
（喜んでいただきたいだけなのに……これでは逆に先生のお邪魔をしているようです）
　恥じ入った時子は、目をうるうるさせて……涙をこぼす代わりに、笑い出しそうになった。
（なんで、私……）
　先生の顔が見られず、逃げるように部屋を出た。

　ちなみに、牛乳で作ったシーフードヌードルはけっこう美味しかったらしい。

　　

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