裏腹な日｜リアクション

裏腹な日

●乙女ゲームのお勧めは

　中学時代に全国大会への出場経験があり、現在はバスケ部の有力選手である羽生碧南。
　彼女が大の乙女ゲー好きなのは皆が知っている事実。
　時折、攻略した乙女ゲーのシチュエーションを脳内再生してはトリップして挙動不審もとい幸せな気分に浸ったりする。
　
　昼休み、碧南は友達と一緒にお昼を食べていた。
　ご飯が終わるころ、一人の友人が話しかけてきた。
「ねえ、碧南ちゃん……」
「なに？」
「私、最近乙女ゲーに興味があって……」
「えっ、そうなの？」
　友人の言葉に目を輝かす碧南。
「でもどれを選んだらいいかわからなくて。どんなゲームがお勧めか、教えてほしいの」
(同好の士が増えるのはいいこと。一緒に乙女ゲーの話で盛り上がれるなんてなんて素敵なことかしら！)
チャンスとばかり、ノリノリで教えようとする碧南。
（ゲームタイトルだけじゃなく、一押し攻略キャラとか胸キュンシチュエーションとか布教しなきゃ！）
　しかし。
「やっぱり『四季恋歌』……あれ、キャラが魅力ないね、感情移入できない。それから最近発売された『猫と乙女とお弁当日和』も……あのゲームはシナリオがつまらないよ」
「えっ」
（えっ？！）
　相手の子以上に驚いたのは碧南である。
（わ、私何言ってるの？）
　大好きなゲームなのに、口が勝手にボロクソに言っている。
「あー、違うよ、そんなんじゃないって！」
　困惑する相手の子に、何とか取り繕うとするが。

　そんな彼女を、通りがかった朝野未沙が見つけた。
（お、あの子可愛い。背が高いし体育科かしら、スキンシップには慣れてるかも。気づかれないように遠くから見ていよう）
　などといつものように思ったが。
　なぜか足が勝手に動き近づいていく。
（えっ、確かにあんなこととかこんなこととかしたいけど、学校でいきなりじゃまずいでしょ）
　焦る未沙。
　近づいてしまって、口を開く。
「女の子なんて全然可愛くないわ。触りたくなーい」
（えっ、あたし、何言ってるの？）
　驚いた未沙は逃げるようにその場を去った。

「なんなの、あの人……？」
「さあ……」
　碧南と友達は怪訝そうに未沙を見送ったが、気にしないことにした。
「そうだ、ゲームの話だったわね。最近『ハチミツハウスの新学期』って言うゲームを見かけて、気になってるんだけど」
　友達の言葉に、碧南は複雑な表情になった。
「あー、それって……」
（乙女ゲー史上最悪の黒歴史的クソゲーじゃん）
　やめたほうがいい、そう言うつもりだった。しかし碧南の口から出た言葉は。
「史上最高の名作だよ！　値段は安いのにしっかり楽しめるし。突然の恋ってやっぱり萌えるよねー」
（嘘、値段以上にクソゲーだよ！　パッケージ詐欺で攻略キャラ少ない上に、共通部分ばっかりだし、シナリオ破綻してるよ……）
　キーンコーンカーンコーン。
　昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「ありがとう碧南ちゃん、参考になったよ」
　友人は嬉しそうにお礼を言うと去っていく。
「ちょ、ちょっと！　違うってば！！」
　しかし先生がやってきて、碧南は発言を訂正する機会を失ってしまったのだった。

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