悠久の時の彼方へ～赤壁炎上｜リアクション

悠久の時の彼方へ～赤壁炎上

「ねぇ、てっちゃん。赤壁の戦いで、連環の計っていうのがあったよね。その確認をかねて、士元先生に会いに行こうかな」
　壬生由貴奈は、築地哲に申し出をしていた。
「龐統のことかい。待ってくれれば、面会の話は付けてくる」
「ありがとねぇ。臥竜・孔明と並び称される鳳雛・士元先生は史実通り達者な人であって欲しいねぇ。士元先生に死ぬ原因を伝えたいけど……」
「……」
「わかってる。歴史改変するわけにはいかないもんねぇ」
　由貴奈は、若くして非業の死を遂げる龐統の最期を思いながら言った。別れ際に、「矢に気をつけて」とだけ言うことにしよう……

「士元先生ですか？実はファンなんですよぉ」
　由貴奈に声をかけられても、龐統は興味なさそうに飄々としていた。身なりに気を使わないのか服装はだらしなく、つかみどころがない。
「世辞はいらんよ。私は仕官もしていないし、功績らしいものを立てたことはないぞ」
「いえ、よーく知ってますよぉ、今から連環の計を曹操に進言することもね」
「ふむ、君は未来のことを知っているのかね」
『三国志演義』では、赤壁の戦いのとき、表向きどの陣営にも属していなかった龐統は曹操に近づき、曹操軍の軍船を鎖で繋がせる「連環の計」を進言したことになっている。由貴奈が秘策を言い当てたことになるのに、龐統は平然としていた。
「その計略、うちに手伝わせてもらえませんかぁ？連環の他にもうひとつ、火種を曹操の船団に置いておきたくて」
「その火種とは？」
　龐統の問いに答える前に、由貴奈はポケットに手をやった。
「あっ、クッキー食べます？」

　その頃、周瑜ら孫権軍・劉備軍の高官は、野外に出て邪衣士の挙動を見守っていた。
　天候を操る能力が簡単に信用されるはずがない。怪しい人物ならなおさらだ。だが、時代を考えれば―――妖術や仙道が信じられているこの時代だからこそ、士のろっこんは力を最大限に発揮できる。
　士はやや緊張しながら集中する。三国志に出てくる張角には、南華老仙から雨風を呼ぶ能力を授かったという話があるが、『三国志演義』の話だからやや信憑性に欠けるかもしれない。
（いや）
　士は考える。
（いつの時代にも、どこの国にもそういった力を持った奴はいたはずだ。でなければ、仙人や妖術なんて話が生まれることもないだろう。そもそも、俺たち自身がそういった力を持っているわけだしな……）
「これから、雨を降らせる」
　心を落ち着けた士はそう言うと、指を３回ぱちんと鳴らした。ろっこん〈天の救い〉の力によって、わずかながら雨が落ちてきた。諸将が顔を見合わせ、何事か囁いている。
　どうやら、力については信用を得られたようだ。
「日の本では、邪馬台国の卑弥呼もこんな力を持ってたんだっけか……」