悠久の時の彼方へ～赤壁炎上｜リアクション

悠久の時の彼方へ～赤壁炎上

　長江の川面に、朝日が差した。威容を誇った曹操の大軍は姿を消し、軍船の残骸が無数に漂っている。
　戦いが終わっても、軍師の仕事は終わらない。撤収や戦後処理の準備のため、忙しく陣地を動き回る孔明に、邪衣士が声をかけた。
「孔明さん、後々のために一つ進言を―――」
「一体なんのことだ？」
「想定外の事態に備えて、君を助けてくれるような同等の知恵者を弟子にしておいたほうがいい。役に立つのは、およそ二十年後の話だけどな」
「ふむ……確かに、人材を育てるには時間がかかる。もっともな意見ではあるな」
　頷きながらも、孔明は疑問に思う。この奇妙な者たちはなぜ、未来のことを知った風なのか―――
　首をひねる孔明に、今度は灯斗南が近づいてきた。
「これからのことを、一言伝えたい―――今回の戦いには勝っても、君の構想した三国鼎立は結局無駄に終わることになる」
　今まで自分が目にしてきた不思議な力を鑑みるに、その言葉も本当なのだろう。だが、孔明は静かに答えた。絶望的な状況から、突然に不思議な者たちの加勢を得て、形勢を逆転した。それは、我が主君に天命があるからに相違ない。孔明は、自らの心にかつてない落ち着きが生まれたことに気づいていた。
「貴方の歴史ではそうかもしれない。だが、私たちの作ろうとしている未来は違う―――私は、知恵の限りを尽くして未来をひらく。今になってやっと、その覚悟ができた」
　孔明の言葉を聞いて、斗南は微かに笑みを浮かべた。
「さすが、歴史に名を残す大軍師だ―――」

「哲さん―――そこにいたのですね」
　ゆったりとした流れをたたえる長江の岸辺で、クルジッカ・ヘルマゴルは築地哲を見つけて話しかけた。
「やあ、待たせてすまないね。もうすぐ、皆を帰還させる準備ができる」
「いや、用はそんなことじゃありません」
　クルジッカはそう言うと、哲の前に回り込む。
「この仕事をして思うことがあります。ワタシたちの現在は、色々な過ちや争いの上にあり、それを受け入れるしかないということです。毎回、ルーアンの時のように都合良くは行きませんよね……」
「……。僕は、あまり自分の仕事の意味を考えたことはないが……」
「哲さんは、最初の頃と印象が変わりましたね。表情に柔らかさが出てきましたよ、良い傾向です」
　クルジッカは人懐こく語りかけるが、哲はぴんと来ていないようだ。
「ほら、この鏡を見て、笑ってみてください―――」
　だが、差し出された手鏡を見たとき、哲はほんの少しだけ口角を上げた。
「次は、平和な時代で会いたいものだね―――」

　激動の歴史を映しながらも、長江の流れは絶えることはない。数千年前から変わらない表情で、大河は濁った水をたたえていた。

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あとがき

担当マスター：三城俊一
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皆様、今回もご参加ありがとうございました。

どこか奇妙な三国志の世界はいかがでしたでしょうか？
毎度、拙いガイドをもとに知恵を出し合っていただいて、感謝しています。

至らぬところは次の改善点にしつつ、少しずつ進歩していきたい。そう思いながら書いています。

それでは、いつかどこかで、またお会いできるのを楽しみにしております。

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