悠久の時の彼方へ～赤壁炎上｜リアクション

悠久の時の彼方へ～赤壁炎上

「できれば、命だけは、助けて、あげたいな……」
　人魚姿の飛吹勘助は、魏の水軍のそばに戻ってきていた。水中に落下して、鎧の重さで溺れている敵兵をすくい上げ、岸まで運んでやる。勝敗はほぼ決まったのだから、命を無駄にすることはない。

　火に包まれた船団から、難を逃れた船が一隻だけ、長江南岸に漕ぎ出した。荊州水軍の水兵たちは、焼死や溺死よりは孫呉の水軍に下ることを選んだのである。
　脱出用の船には、突入した面々が乗り込んでいたのだが、御剣刀だけは別行動をしていた。一人、会っておきたい人間がいる。長江を泳ぎ、北岸に上がって、退却中の魏軍の中を駆ける。邪魔する者を、次々と刃引き刀で打ち払っていくうちに、刀の目は目的の人物を捉えた。曹操軍の軍旗の下にいる敵将・曹操だった。刀は少し離れた地点から、追いすがるように曹操を呼んだ。
「曹操！あんたを策にはめた者だ！」
　刀の声に気づいた曹操が振り向く。
「お前か、芝居の上手い小童というのは」
「ああ、俺たちはこの通り、あんたを騙した。だが、俺の腕は本物だ。そこまで嘘にされるのは納得いかないんでね、それを言いに来た！」
「ははっ！」
　曹操は刀の言葉を聞くと、ひどく愉快そうに高笑いを上げる。
「敵陣まで来た目的がそれだけとは！腕に覚えがあるなら、ついでにわしの首も狙いに来ぬか！」
「あんたは生き残るよ、そう決まってる―――じゃあな」
　それきり、刀は兵の群れに紛れ、曹操の目の前から消えた。

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