＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～｜リアクション

＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～

承：いざ、勝負の時！

　福玉争奪戦には、沢山の人が参加していた。その中には寝子島の住人達もちらほらと混じっている。
　その中、ルールを確認している者がいた。新田亮である。彼は争奪戦担当の神官から道筋なども教えてもらい、１人考察する。
「基本一本道の街道で、カーブが一箇所にあり。そいでもって石畳か……。道具の使用はOKで、ともかくレース前の妨害がアウト、レース内ならOK、か。これが使えそうで安心したかもな」
　そう言って亮が取り出したのは、野球の硬球である。それがどう生かされるのかは興味深いところだ。
　だが、そのすぐ後に覇気を覚え、亮は振り返る。そこにいたのは、同じ学校に通う仲間で中々の美丈夫。そいでもってはっきり強敵と言える相手だった。
（レースが開始すればなんでもありの競争ね。ふふっ、面白そうじゃない♪）
　と、内心で言っている尾鎌蛇那伊だが、既に本気モードなのか、呼吸を整えている。そうして練った気を全身に巡らせ、戦闘モードへ移行しているのだ。一体何をしてくれるのか期待が高まる。
　そんな様子の蛇那伊に、亮は武者震いしつつ「楽しめそうだ」と内心でにやり、と笑った。
（こういう祭は確か地球にもあったけど、月世界のは流石に過激だね。やり応えがあるし、楽しませて貰おうかな）
　ナイフの扱いを得意とするサキリ・デイジーカッターは愛用のナイフを手入れしつつ、楽しげに周囲を見渡した。強そうな人々が集まっているからか、ちょっとウキウキしているようだ。
「やっぱり、ナイフが獲物の人もいるわよね」
　サキリの様子をちらり、と見た火焔燐は小さな声で呟く。そんな彼女の獲物は、女性の掌ほどの刃渡りを持つ小刀。
「あたいはこれでもって答えるわ」
　そうしながらも攻撃より相手の武器を捌く事を念頭に置いている。他者との戦闘を避けなければ、ロスになるだろうと考えているようだ。
（白虎族も気になったけど、ね）
　眼鏡を正しながら準備運動するのは呉井陽太。彼は今回玄武族となり、その能力を生かしてみよう、と考えていた。
「そういえば、亀を召喚できるんだっけ？　よーし、試しに召喚してみよっと♪　おいで！」
　陽太がそういうと、両掌の上に亀が現れた。小さな亀はとっても愛らしい。
「うーん、肩に乗せてみよう。大きかったら乗せてもらえるかなって思ったけどね」
　そう言いながら頭を撫でてやると、亀は嬉しそうだった。
「ふぅん、呉井も『玄武』なんだな」
　そう言ったのはポニーテールを揺らし不敵に笑う華嶋純夏。陽太は亀を肩に乗せながら眼鏡を正す。
「って事は純夏ちゃんもかぁ。まぁ、お互い同じ種族としてがんばろう」
「あぁ」
　陽太の言葉に純夏が頷くと、彼女の肩を叩く者がいた。七峯亨である。彼はどうやら朱雀族に変化しているらしく、背中に赤い翼を背負っていた。
「争奪戦って事で組もうぜ？　ちょっとした案があるんだ」
　亨がその内容をこっそり話すと純夏は「なるほど」と思わず感嘆の息を漏らす。
「物理でそんなん聞いたような気がするが、よくこんなん実際にやろうと思うよな。だがその意気は面白い。その役目、しっかり努めてやろうじゃねぇか」
　彼女の言葉に、亨は「決まりだな」と頷く。２人はハイタッチして共にスタート位置へと向かうが、微妙に剣呑な空気が漂うのは気のせいか。

　その一方、こんな２人も……。
（なんでもあり、か。そうならチームを組むのもありだよね？）
　朱雀族となった日暮ねむるは、青龍族となった響タルトを見つけると「おーいっ！」と声をかけた。目的は手を組むためだ。それにタルトは賛成する。
「スピードに自信があるわけじゃないし、個人戦より共闘したほうが面白くなりそうだよね。よろしく、ねむる君」
「こちらこそ、よろしく」
　握手を交わし、共にスタートラインへと向かうねむるとタルト。２人はふと亨と純夏のチームと目が合った……気がした。