＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～｜リアクション

＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～

　それをいくつか包んでもらうと、美咲紀はふわり、と手のひらに炎を躍らせる。淡雪玉をそれで少し炙ろうと考えたのだ。
「マシュマロみたいなので、いけるとおもうのです」
「俺の分もやってくれ」
　修の頼みに頷き、ためしに炙ってみる。うっすらとこげたところで口に運ぶと、雪のように解けて甘さが舌いっぱいに広がった。
「これはいけます！　クラッカーさえあれば……」
　ちょうどソースせんべいのようなものならば近くにあるが、クラッカーはない。身もだえする美咲紀の様子を温かい目で見守っていた修。美咲紀は仕方なく朱雀族用に用意された炎をつまみ上げ、口に入れる。その香ばしくも懐かしい風味に目を細めると、美咲紀はもう１つ炎をつまむ。
「修くん、どうです？」
「いや、俺麒麟族だから無理だぞ」
　修が肩をすくめると、その様子を見ていただろう朱雀族の男性もくすくす笑っていた。
「人前で炎を勧めるたぁ、お嬢さん。みせつけてくれるねぇ」
「？」
　美咲紀が不思議そうに首をかしげる。修が詳しい事を問うと朱雀族の間では、『相手に炎を食べさせる』＝『思いを告げる』もしくは『愛を囁く』ことなのだそうな。勿論、多種族の場合は食べられないから蝋燭などに炎をうつすのだが。
　それを知った美咲紀は顔を真っ赤にし「知らなかったんですぅ～」と手で顔を覆ってしまった。

（あ、これは本当に美味い）
　縁日で食べ歩きをしていた御剣刀は満月焼きやら真珠飴やら、屋台の料理をコンプリートする勢いだった。
　今食べているのは、練り醍醐。柑橘系のソースと混ぜてあるそれは、地球で言うカッテージチーズに似ていた。だが、ほんのり甘酸っぱくて、口どけもよい。店の主人曰く、この国では祭りの定番なのだそうな。
「お、これは魚の塩焼き？　鮎っぽいけどでかいな！」
　別の屋台では秋刀魚なみに大きい鮎っぽい魚が串焼きになっていた。さっそく食べるとほんのりと山椒のような香りがした。肝の苦味も食欲をそそる。
（大人になったらお酒と一緒に楽しみたいなぁ）
　なんて思う刀なのであった。
　ふと顔を上げると、優木遥斗が少し離れた場所にある長いすに座っていた。彼は召還した亀にさきほどの串焼きを食べさせていた。

（月華世界のお祭りか……どんな美味いものがあるのかな？）
　ふんわりとした雰囲気で、遥斗は考えながら縁日を回る。普段、剣道の試合や異常事態以外では闘争心のない彼は、食べ物に興味を示す事が多い。
　そして、月華世界へ訪れた今日も、縁日にでる食べ物に興味津々だった。
　そんな彼は、今回、とある事を試したかった。先日判明した、月華世界に暮らす種族への変身である。玄武族となった彼は和服を身にまとい、早速「亀、でてこい」と念じる。玄武族は亀を相棒に呼び出せると聞いたからだ。
　すると、片手に乗るほどの大きさの亀が現れた。亀はのんびりと遥斗を見上げる。はじめまして、とでも言うような人懐っこい眼差しに、遥斗の目も柔らかくなった。
「こっちの満月焼きも美味いな。ん？　お前も食べたいか？」
　縁日を亀と巡る中で、色々な食べ物を食べていく。その中で亀が食べられそうな野菜や魚などももらい、そのお礼に呼び込みとか子守りをしたりしていたのだ。
（うん、実に美味いな）
　長いすに座って魚の串焼きを食べる遥斗と、亀。１人と１匹は和やかな雰囲気で縁日を楽しむのだった。

　刀は魚の串焼きの他、甘酸っぱい練り醍醐を食べながら、ぼんやり思った。
（これってチーズか？　……にしても、恋の味、か）
　屋台で詠われた言葉を繰り返し、刀の目が細くなる。脳裏に浮かんだのはこれまでで体験してきたいくつかの戦い。そして、それらにかかわった影の貴人である帳、刹弦、星華。そして……その親玉である愛憐の姿が。
　悲しき愛など刀には解らなかった。だが、彼には１つだけ確信を持った事がある。
（……あいつらにとっては、そう簡単には譲れないモノなんだろうな）
　そんな事を考えていると美咲紀と修に会った。２人は、これから行われる福玉争奪戦の観戦をするのだそうな。刀もまた興味を持って付き合うことにした。

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