＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～｜リアクション

＜月華＞闘華降煌　～求めよ、さらば与えられん～

（もしかして、あの時の？）
　清一郎は、過去に天狼族の娘たちと交流を持った事がある。見知った女の子たちとの再会に、清一郎の頬も緩んだ。
「セイイチロウさま、お久しぶりにございますっ」
　そう頭を下げたのは、『読心』能力を持つと言っていた娘だった。灰色の髪を短く切った彼女は、淡い菫色の袴と、星座のような文様を標した白地の着物を纏い、髪には藤の花の髪飾りをつけている。
「えろう似合っとるわ。みんなもかわええなぁ」
　清一郎がほめれば、娘達はますます頬を赤くする。そんな様子を見ながら、零はふと、街のほうを見る。
（そういえば、師匠は福玉争奪戦に出ると言っていたな）
　結果を後で聞こうと考えていると、脳裏に師匠である火焔燐との会話が浮かんでいた。

　＊　＊　＊
　月華世界に燐も着ていた事に、零は驚いていた。燐は零をはじめ、この世界にかかわった事のある弟子たちから話を聞いていた。
　彼女は額に角を持っており、元々長かった赤い髪がさらに長くなっていた。どうやら麒麟族らしい。
「零ちゃんは朱雀？　なんだからしいわねん♪」
　そう笑う彼女は零に福玉争奪戦に出るのかと問い、零は「否、今回の勝利は師匠に譲り候」と笑う。
「拙者は、鍛錬や修行で組み手を行えども、戦闘で武を奮う事はない」
　零もまた福玉争奪戦にでるのではないか、と思っていたようだ。しかし、彼の話を聞き、くすり、と笑って「わかったわ」と頷いた。

　ただ肉を断ち切っただけでは、本当に他者と武器を交わした事にならない
　相手の武器を返して相手の心に触れねば真の意味で他者の命に関わる事はできない
　心・技・体あらゆる武術に通ずる【理】
　剣術なら剣を以って、拳なら拳を以って相手を知り、己を知る
　須く【心の所作】である

　零は、そう、師から習った。そして、こうも……。
（故に、『武器で心に触れあってものまれてしまえば勝利は無い』……と）
　零の眼差しで燐は全てを察したのである。彼女は「がんばってくるわ♪」と艶めいた笑みを見せ、零は「ご健闘とご武運を」と祈るのだった。

　＊　＊　＊　＊

（あと少しでその時間だろうかの）
　零がお茶を飲みながら考えていると、真央が「華夜ちゃんからのもらい物なのだ。みんなで分けるのだ」とお握りの乗った盆を持って現れた。若衆たちに混じって清一郎がそれを手にし、楽しげに笑う。
「みんな、いい笑顔で候」
　零は静かに瞳を細めた。

　その頃、椿美咲紀は八神修と共にのんびりと縁日を楽しんでいた。朱雀族の姿となった美咲紀は赤い翼を伸ばし、空気のほのかな暖かさをありありと感じ取っていた。熱に敏感になるのではないか、と睨んでいた彼女は予想が当たり、ちょっと嬉しく思っていた。
　一方の修は麒麟族になっていた。僅かに髪が伸び、角が生えた姿を美咲紀はまじまじと見つめる。
「んー、白虎族にならなかったのです？　ほら、一番かかわってますし、なるのかなーってちょっと思ったりもしましたが」
「性質的な物かな」
　と苦笑する修。そんな彼は美咲紀が好みそうだと思った淡雪玉の屋台へと連れて行く。すると、ころころとした淡雪玉は愛らしく、美咲紀の心を捉えたらしい。彼女はうれしそうに顔をほころばせた。試食してみると、マシュマロっぽくて、それでいて仕込まれたソースと絡み合うと風味が溶け合って美味しい。

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