天使が瞳をひらくとき｜リアクション

天使が瞳をひらくとき

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つい、先日のことだ。
八神修は、星ヶ丘教会で不思議な体験をした。過去や痛みを見つめなおすような、そんな経験を。
だけど、今日彼が椿美咲紀と共にこの忘れ花の教会を訪れたのは、そういう……懺悔のようなことをするためではなかった。
ただただ、現在をごく当たり前に過ごすため。それだけだ。
「狐さんたち、元気にしてるでしょうか」
そう呟く美咲紀の手には、沢山の秋の花。コスモスにヒャクニチソウに、花ではなくて実だけれどフォックスフェイス。丸っこいけど狐な形が可愛らしい。
「元気にしてるさ、きっと」
その前に、まずちゃんと見つけられるかだけど――なんて言うと、
「シュー君の動物に好かれる体質なら大丈夫ですよぉ、信じてます！」
と美咲紀。修自身その体質に自覚はあるけれど、同じ動物好きに言われるとなおのこと自信が湧いてくるというか、なんというか。
とか言っているうちに、教会の周囲には狐の影がちらほらと。花の香りに誘われたのか、それとも好かれる体質に吸い寄せられたのか。
天使像の近くにシートを敷き、修はずっと持っていた鞄を降ろした。開けた途端、ふわりとした芳香が辺りに立ち込める。美咲紀と同じく、修も秋の花を持ってきていたのだ。
たくさんの花に囲まれて、二人の周りだけまるで花畑のよう。花が好きな狐達が、それに反応しないわけがなく。あっという間に、二人は狐達に囲まれてもふられて……というか、埋もれてしまった。さながら狐布団。
「秋のお花が綺麗に咲いたから会いに来たのよ」
幸せそうな様子で、美咲紀が狐達をまふまふしながら抱きしめているのが横目に見える。
修は修で、埋もれるのには慣れているからむしろ嬉しくて仕方ない。狐達の気持ちいい部分を優しく刺激して可愛がる。
この狐達には、想い人と楽しい時を過ごさせてくれた恩もあるし。

狐と戯れる修の横顔を見て、美咲紀はふと思い出す。
それは、一枚の写真。北海道で夜景をバックに撮った、彼１人だけの写真。
コッソリ撮ってしまったけれど、それは本当に思わずで。もし何故かと聞かれても……「何だかドキッとした」からとしか、答えられない。
「そういえば、この前はあおいと一緒だったんだ。あの時の狐は居るかな？」
狐布団から身を起こしつつ、修はきょろきょろと辺りを見回している。楽しそうにこの前の話をする彼は、きっと好きな人が居るのがバレているとは知らないのだろう。
だけど、美咲紀は知っている。知っていて、応援もしてる。本人が知られてないつもりだから、そりゃ表立ってどうこうなんてできないし、しないけど。
ぼんやりと、楽しげに話す修の横顔を見つめる美咲紀。
普段の冷静な姿も、いいと思うけど。今見ているみたいに、ちょっと血の通った表情とかもいいなと思う。
（彼女は、こんなシュー君も見た事あるのかな？）
そんなことをふと考えて――
「どうした？」
修の言葉に、はっと我に返った。じーっと彼のことを見つめてしまっていたことに、気づく。そうしたら、瞬間湯沸器のように急に意識してきてしまって。
「えっ、えと、その」
はわはわする美咲紀の心は露知らず。修は無邪気に、
「狐の抱き方や撫で方が知りたいのか？」
「ち、違いますよぉ！」
するときょとんと首を傾げて、やがて得心がいったような表情に。
「なんだ、美咲紀もなでて欲しいのか？」
なんて冗談めかした調子で口にしたかと思うと、ポフンと頭に彼の大きな掌が。
「な、何でもないですぅ！」
かぁっと熱くなった頬を隠すように、美咲紀は狐布団に顔を埋めた。