シナリオ「天使が瞳をひらくとき」

天使が瞳をひらくとき

　白を纏い、生い茂る野薔薇。
　その花たちに隠されるようにして、廃墟と化した小さな教会が其処に佇んでいる。
　九夜山の中、ひっそりと。
　――今日も誰かを待っている。

　本来の名を九夜山勿忘草教会という。
　だが人は、この場所を忘れ花の教会と呼んだ。

　美しかったであろう教会はかつての見る影もなく、破られたステンドグラスは寂れた今を語る。
　砕かれた色とりどりの欠片ばかりが、夢の跡を残すかのように散らばり、ガラスを踏めば細く儚い音が広い空間に響く。
　踏み入れば、取り残された今も静かに祈りを捧げる天使像がひとり。
　うつくしい翼を広げたまま、其処に在り続け、時を刻むだけの存在が居る。

　花風冴来は天使のおでこに額を預け、双瞼を閉じて。
　静かに。静かに。
　こうして心を預けていると、静かな水面のように澄んでゆくようで。
　そんな心に浮かんでくるのは、さまざまなこと。　
　過去のこと、現在のこと、未来のこと。自身を取り巻くこと、ままならぬことも。沢山。
　――想う。
　過去にいた人、今傍らにいてくれる人、これからを共に歩めるかもしれない人。
　様々な想いたちが、音もなく訪れては去ってゆく。
　寄せては引いてゆく波のように。

　天使は何も口にすることはなく、ただ耳を傾けてくれるだけ。
　だから言えることも、預けられるものだって、きっと。

「……あなたは、なんでも聞いてくれるわね」

　なんでも。
　そう、なんでも。
　瞳は閉じたまま、そう零した冴来は気付かない。

　天使の瞳が静かに開いたことを。
　天使の口許に笑みが宿ったことを。

　鎖した瞳をひらいた、その時。
　――見えたものは。

運営部より

【追記】2015年12月16日
大変お待たせしておりまして、誠に申し訳ございません。
都合により、本シナリオの担当は風雅宿マスターに変更させていただきます。
リアクションの公開は、2016年1月8日を予定しております。

ゲームマスターより

担当ゲームマスター

風雅宿／癒雨

マスターコメント

お久しぶりです、癒雨です。

今回は九夜山にある忘れ花の教会に迷い込んだお話となります。
あなたが此処に訪れたとしたら、物言わぬ天使に何を思い、何を祈りますか？

過去に思いを馳せたり、過去の思い出に懺悔の気持ちを零したり。
言の葉として口に出さなくても構いません。天使は心の声を聞き取ります。
祈る気持ち、預けたい気持ち、または天使の前で友人と紡ぐ話。
自身の気持ちや、お互いの気持ち、そういったものに寄り添うものを書かせて頂けたらと思っております。

天使は神魂の影響か、あなたを何処かへと連れ出すことがあるようです。
語る内容を切欠にして、少しだけ怖い思いをさせられたり、不思議な体験をするかもしれません。
もし誰かを傷つけてしまったことを懺悔したならば、その相手の心にあなたが触れ、自身のことのように見ることになるかもしれません。
しあわせを求めたのなら、夢のようなひとときが有るのかもしれません。
どれも、きっと瞬く間に過ぎ去っていくものになるでしょう。

結果としてどのような体験になるか。それは語られるもの次第になります。
語る内容に対して持つ自身の気持ちなど、目一杯込めて頂ければ精一杯汲み取らせて頂きます。

忘れ花の教会には、
シナリオ「茜空の向こう側」に登場した浅葱螢（あさぎけい）、
シナリオ「花愛で狐と秋の花」に登場した九夜山の狐、なども迷い込んでいるようです。
アクションに記載されていれば、登場したりもします。何かございましたらお気軽に。

▼狐について
人間に対してはとても好意的です。簡単に懐いたり、寄り添ったりしてくれます。
人の言葉は話せませんが、言葉をかけたら聴いてくれますし、天使に語る際は傍らにいてくれます。
かつて神魂の影響で持っていた能力も、今は持っていません。
ただ花が好きな狐たちです。

▼お願いと補足
・キャラさんの言葉選びを知りたいので、アクションはキャラ口調だと助かります。
・絡みの可不可を記載して頂けると嬉しいです。（無ければ基本お一人さまか、もれなく狐が寄り添います）
・誰かとご一緒の際は、アクションの最初に名前の記載（呼び方など）をお願いします。

サンプルアクション（1）