INFINITE†NIGHTMARE｜リアクション

INFINITE†NIGHTMARE

「その格好は——、一体どういうつもり！？」
　悪の生徒会執行委員会委員長翠響に睨まれようとも、葦原忍穂はひるむどころか優雅に笑っていた。
「我は堕天使、どのような仮面を纏おうと、それは変わらぬ真理。しかし、我が本質を理解すること、能わぬ人間にそれを要求するは酷という物よ」

「は……、はあ？」
　翠響は忍穂の難解な言葉が分からず、自分でつけた自分の設定を忘れ、思わず脱力してしまう。ゾンビたちが「今なんて言った？」「わかんない」とざわつく中で、陽毬がまたひょっこり顔を出した。　
「『我は堕天使であることに変わりはないですが、魔法使い風の服装の方が皆に役割が伝わりやすいですよね』、だそうです」
　意味がわかったところで、気を取り直して続けよう。

「魔法使いが、あたしの邪魔をしようと言うのね！」
「堕天使だ」
「堕天使が、あたしの邪魔をしようと言うのね！」
　翠響が頑張って言い直している事へ、ゾンビたちは少々同情的な視線を送っていた。
「今の私は一度封印され、力を一部失った身。ましてや、神から授かった愛刀である「朱櫻胡蝶雫切（しゅおうこちょうしずくきり）」も無い状態……。
　しかし薔薇の吐息によってルシフェル様と本来の姿から、魔力を増幅させた今、闇の力はこの姫神子の敵ではありません！」

　岡田菜々子の登場セリフに、またも皆がざわついた。忍穂の口調よりは幾分マシとはいえ、朱櫻胡蝶雫切や薔薇の吐息という固有名詞、それに前提になる彼女本人の『設定』が理解出来ていない為、簡単な言葉も受け取るのに時間がかかってしまうのだ。
「あの、誰か……」
　助けを求める声を聞いて、陽毬がまた『翻訳』をする。
「『転生設定前の力はありませんが、洋風魔法の力で魔法少女に変身した今、悪は私の敵ではありません』、だそうです」
　意味がわかったところで、気を取り直して続けよう。

「バカなことを……、その言葉をそっくり返すわ！」
　翠響はそう叫んで、忍穂と菜々子に指を突きつけた。「あの子打たれ強いね」とレナートがエリセイに耳打ちする中、二人の魔法少女？　と翠響の決戦が始まった。きらきらと輝くエフェクトや舞い散る花弁を目くらましにして、菜々子は凜乃と修たちへ振り返る。
「今のうちに車に乗り込むのです！」
「有難う！」
「フン……堕天使たる我に、儚き人間の些少な願いを叶えられぬとでも？　彼等が生の煌きを放つ瞬間を観察することこそが我が娯楽よ」
「全然わかんないけど、とりまさんきゅ！」
　礼を叫ぶ凜乃に背中を援護して貰いながら、修は近くにあった四駆の扉を開いた。幸いキーは助手席のダッシュボードのグローブボックスにあった為、急いでエンジンをかけ、アクセルを踏み込む。
「無断拝借、すみません先生！」
「僕からもごめんなさい」
「僕！？」
　イリヤの一人称を聞いて、修が急ブレーキをかけた。
「危なっ！　なにやってんの八神！」
　助手席の凜乃に小突かれながら、修は心臓をドキドキさせている。大きな勘違いをしていたのに気づいた——。
「男の子だったのか、可愛すぎだろ」
「……男の名前だし、声もそんなに高くないと思うんだけどな……」
　イリヤは困惑して、Tシャツの裾を引っ張った。声変わりも終わって背も大分伸びてきたと思っていたのだが、男らしさとは別のところから来るのだろうか。服装にも気を使ったほうが良いのだろうか——、と物語を演じている枠をこえてイリヤが悩み始めた一方、修は小さな声でぽつりと呟く。
「話を作る時にイリヤ君がお洒落したら可愛いよなあと連想したけど、内緒だよ」