INFINITE†NIGHTMARE｜リアクション

INFINITE†NIGHTMARE

　蒸気の中にシガーの煙を燻らせて——実際はチョコだ、煙など出ていない——、ブラックスーツの男がフェドーラ帽の鐔の下から、鋭い視線を覗かせた。
「ねえ、僕があいつらを足止めしたら、この街を貰えるって話は本当なんだね？」
「しつこい男ね、エンプレスに二言は有りませんわ！」
「ふん、方法は好きにさせて貰うよ」

　そんな話し合いが行われているとは知らず、エージェントロベルトと陽毬は、ロベルトの情報屋である志波武道と共に、クリムゾンエンプレスのアジト『秘密の社交クラブ』へ侵入を果たしていた。
　社交クラブのメンバーが集めたらしい武器弾薬の入った木箱がそこかしこにある広い倉庫の中、彼らが凍りついた眼差しで見つめているのは、クリムゾンエンプレスが伊橋博士の研究から作り出した最終兵器だった！
「あれは——、父の作っていた最終兵器、『アイポン６s』ッ！」
「もう完成していたのか……！」
「伊橋博士が作った『最強の文字、すべてを従えさせることができる【王】が入力できる防具データが入った媒体』。
　クリムゾンエンプレスはこれを利用して世界を支配するつもりなんだ！」
「えっ！？」
　武道が口走った台詞を聞いて、陽毬は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「か、会長さん？　そんなに複雑な設定があったんですか？」
「あははごめんごめん」
　武道は眼鏡の蝶番を押し上げて笑う。
「寝る前にちょっと週刊少年にゃんぷ読んでたのもあるから、思考は今熱いバトルもので！」
「はぃ……？」
「最終兵器からダウンロードしたら、入力した文字で、能力付加して戦うんだよー☆」
「へー、それは凄いね」
　ロベルトは武道の説明を頭の隅に収めながらふんふんと頷き、最終兵器を観察している。ロベルトが提案したスチームパンク世界に準拠したのか、最終兵器の見た目は真鍮風の作りに仰々しくも歯車が幾つか付いているが、どう見ても——
「スマホだね」
「会長さん、これってスマホを持ってない人は戦えないんですか？」
「え？　ガラケーの人？　……テヘ、考えて無かった」

　——沈黙が起こってしまった。

　ふわふわ打ち合わせした結果が果たして繋がるのかどうか、ここへきて不安になってきた彼らが今更小声でやり取りを始めると、サブマシンガンの連射音が響いた。マフィアものではお馴染みのトミーガン——理想の効果音はタイプライターと通称される所以の連続する激しいガガガガンッと言う音だったが、実際はBB弾の散らばるタタタなる可愛い音なのはご愛嬌だ。
「きゃー！」
　悲鳴を上げる陽毬を守るエージェント二人の前に、ブラックスーツの男が立ちふさがった。
「ハハハハ！　茶番はそこまでだよ！」
「はあ、助かった。設定のほころびも次の展開になったら忘れられるよね」
「助かったとか言っちゃダメですよ会長さん！」
「ちょっと登場台詞聴いてるー！？　
　僕はクリムゾンエンプレスと手を組むマフィアのボス、ジュスト・ランベールさ！」