Kiss or Treat　～お菓子くれるかキスしてくれる？｜リアクション

Kiss or Treat　～お菓子くれるかキスしてくれる？

●幕間～厨房にて・２

　ふしゅうう……と頭から煙を吐いて、伏している碧南の隣にセレッソと璃音が倒れ込んだ。
　キキーモラの恩と善き魔法使いのリュージィンのパネルが新たに明転する。
　ピクリとも動かぬ三人に、
「乙女ゲームとはかくもすさまじき破壊力、ということか……？」
　と氷華・クルバトフは冷静に状況を分析する。
　疑似とはいえ恋愛というものは、人間の持てるエネルギーのほとんどを費やすものであるらしい。

　鴇波羽衣がおずおずと氷華を見上げる。
「乙女ゲームやったことないし、コツとかよくわかんないけど、……目の前のことを一生懸命頑張ればいい、のかな？」
「案ずるな。私なぞ、なぜ自分がメイド服を着ているのかもわからない」
　ちらり、と横目でマリアを見る。
　本来の主人公である長い黒髪のマリアは、きゃあきゃあ言いながらみんなと恋愛談義で盛り上がっている。
「マリアさんも、偶然迷い込んだの？」
　夏朝が尋ねるとマリアは首を横に振った。
「ううん。あたしは偶然じゃないわ。だってあたしは本当の主人公だもの。本当ならあたし、城の全員と恋をするはずだったのよ。でも、これはこれで楽しいわ。自分の恋じゃなくてもけっこう興奮するものねぇ」
　思ったより陽気な性格のマリアに夏朝は面食らいつつ、親切心でこう聞いてみる。
「好きな人とか、いる？　もしいれば、応援するよ」
「ん～、今気になるのは赤毛の彼かな」
　指差したのは炎の魔法を得意とする暗黒魔道士のパネル。
「あーあ、そろそろあたしも面と向かって告白された～い！」
　頬を染めて身をくねらせるマリアの腕を、むんずと掴んだのは氷華だった。ついでにもじもじしている羽衣の手も掴み、アイスブルーの瞳にちゃきりと眼鏡を装着したメイド長は、仕事モードで急き立てる。
「行くぞ。いつまでもこんなところにいられるか。テンポよく攻略だ」