Kiss or Treat　～お菓子くれるかキスしてくれる？｜リアクション

Kiss or Treat　～お菓子くれるかキスしてくれる？

●エピローグ

「さよなら、またね、クローネ様」
　スカート姿に戻った天吏が、うっとりとオレンジ色の空をゆくカラスを仰いでいる。

「あ、れ？」
　まるで夢から醒めた直後のようなぼんやりとした気分で、春彦はあたりを見回し首を振った。
　いつものキャットロード。いつもの１１月の夕方。
　自分はフランケンの格好で、季節外れになったハロウィン乙女ゲームのチラシを配っている。
　何故か隣には頬を赤らめて口元を押さえる斗南がいて。
「マリア……クローネ……？」

　透はそんな彼らの様子を横目に、くすり、と笑って松生の手を引く。
「送りましょう。塔尾さん、今日はいつも以上にぼんやりさんみたいですからね」
　覚えてるのかな、覚えていないのかな？
　松生は気になってちらちら様子を伺うけれど、透はにっこり微笑んだまま。
　彼の心の奥底に、いつか触れられたらいいのだけれど。

◇

「事件解決、だよねっ？」
　陽毬が碧南に声をかける。
「そうだね。楽しかったぁ。あ、あそこにいるの、あなたのお相手だった先輩じゃない？」
　碧南の視線の先に、ウルフカットの先輩を見つけ、陽毬は駆けだす。
「先輩っ、あのっ！」
「ん？」
　一馬は振りむき、首を傾げた。神魂の影響で乙女ゲームの攻略キャラになっていたことは、ほとんど覚えていないらしい。それでも陽毬のことは記憶の片隅に残っていたのか、
「どこかで……会ったよな？」
　と首を傾げている。
　陽毬は明るく微笑むと、先輩に片手を差し出した。
「改めまして、寝子島高校１－４の本居陽毬でーす。これをご縁に、仲良くしていただけるとうれしいでーす」
「お、おう。よろしくな？」

◇

　夏朝は、手に嵌めたパペットのハルくんで、修の頭の後ろをやさしく撫でた。
「なんだ？」
「なんとなく。いろいろありがとう」

　恋する気持ちはすっかり消えてしまったけれど、彼に癒された感謝の気持ちは残っている。
「猫っていいよね」
「猫っていいよな。猫のことになると、ほんとに恵御納とは気が合うよ」

◇

　王子だったマキナは女性の姿に戻り、羽衣は残念なようなほっとしたような気持ちだ。
（やっぱりマキナさんってカッコいいな。でもこの気持ちは「恋」より「憧れ」だよね？）
　他にちゃんと好きな彼がいるから、マキナに本気になってしまったら困ってしまう。
　当のマキナはきょとんとして、首を傾げている。
「どうしたの？」
「えへへ、なんでもないです」
　今回のことで、一つ学んだことがある。
　それは、事件解決のためとはいえ、面と向かって告白ってすっごく勇気がいるんだなあ、ということ。
（現実の恋は、きっともっと甘くないよね……）
　彼の顔を思い浮かべて切なくなる羽衣であった。

◇

　恩もまた、城でのことは、白昼夢を見ていたのと同じくらいにおぼろげにしか覚えていないようだ。
「なにかしら……とっても幸せな夢を見ていた気分ね……」
　隣にいるセレッソが、もじもじと袖を掴んでくる。
　それがいつも以上に愛おしく感じられて、恩は袖を掴むセレッソの手を、自分の手で優しく包んだ。
「恩センパイ？」
「こうしたい気分なの。だめかしら？」
　セレッソはぶんぶんと首を振る。だめじゃない。嬉しい。そんな気持ちをいっぱい込めて。
（今日はちょっと急過ぎたけど、センパイとはこれからも一歩ずつ、仲良くなっていきたいノ）
「恩センパイ、これからもよろしくナノ」

◇

　それから約１時間後。
　シーサイドタウンにある立樹の職場、カフェ&BARエルデストは夕食時の賑わいを見せていた。
　カウンター席には氷華がひとり。立樹は彼女の前に血のように赤いカクテルをそっと置く。
　トマトベースのブラッディ・マリーだ。
「これは頼んでないけど……」
「俺のおごり。気にしないで。今日はなぜか氷華さんにサービスしたくてね」
「……ありがとうございます」
　お礼を言うも、吸血鬼の立樹が思い出されて、かあぁっと頭に血が上ってくるのが分かる。
　立樹は夢だと思っているみたいだけれど、神魂の影響とはいえキスしたわけで……。
　などと考えれば考えるほど立樹の顔が見れなくなって、氷華は慌ててカクテルを煽る。

　その向こうでは、あやめと璃音、ミッシェルと万里、それからフジコ先生がテーブルを囲んでイケメン談義に花を咲かせていた。
「あ～あ、イケメン！」
「あ～あ、美少年！」
　ミッシェルと万里はお互いため息をついている。
「いいえ、こんなことでへこたれてちゃダメよ～ん。いつか、この手にイケメンを！」
「そーよ、あたしだって、いつか美少年ハーレムを！」
「っていうかイケメンの特製デザートはＲ１８っしょやー！　オッサンバンザーイ！」
　璃音はソフトドリンクにも関わらず、酒が入った二人と同じノリで乾杯し合う。

「ね～え？」
　フジコ先生があやめの耳元に顔を寄せた。
「あなた、次の試験頑張りなさいよ。そうしないと、新しい首輪を付けちゃうわよ？」
　あやめはぎくりと身を震わせる。
「……とうとう金属製？」
「そういうのが好み？」
「いや、あは、あははははは……」

　エルデストに、賑やかなイケメンコールとあやめの乾いた笑いが響く。
　こうしてひとつの乙女ゲームが齎した神魂騒動は、なんとか幕を閉じたのであった。

＜了＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

ご参加ありがとうございます。マスターを務めさせていただきました笈地です。

駆け足ぎみの疑似恋愛、乙女ゲームの世界はいかがだったでしょうか。
みなさまからいただいたアクションにもだえつつ（ときに笑いつつ）執筆させていただきました。

今回の出来事は元の世界に戻ったら、
はっきり覚えていてもいいですし、夢かな、くらいな気分でもかまいません。
でももしかしたら、みなさんの恋に、ちょっとは影響を及ぼすかも……？？

ところで、今回基本的に個別コメントなしにさせていただいております。
じつは今日登山してきまして～～～～た、体力が……がくり。
とっても風が強くて、でも天気が良くて、気持ちよかったです～。
帰りは生まれたての小鹿みたいにプルプルになっちゃってましたけどね＾＾；

それではまたご縁があれば幸いです。笈地でした。

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