体力をつけよう　～初冬編～｜リアクション

体力をつけよう　～初冬編～

「えっと……、こんにちは」
「どーもー……って、そっちは多分覚えてないかなぁ？」
　実理が不思議そうにしつつも挨拶をし、由貴奈は「まぁ、うちもあのときはそっちの戦車潰すのに必死だったしねぇ」と苦笑する。だが、あの時『今にも死にそうな姿』に見えた実理は、やせ気味ではあるが、健康的な顔色をしていた。それを聞き、実理は軽く自己紹介をする。
「２度も私が皆に迷惑を掛けたという事は覚えているわ。その……あの時は巻き込んでごめんなさい」
　申し訳無さそうに頭を下げる実理。彼女は今、祖父母の元で体力づくりと社会復帰のためのトレーニングをしている事を告げた。それを聞き、なんとなくだがもう大丈夫かもしれない、と思う由貴奈。
「うん……。まぁ、なるべくああいうことは起こさないことをオススメするよぉ。ほら、自分の為にも他人の為にもならないから、さ？」
　そう言えば、実理は「そうだね」と深く頷いた。
　立ち話もなんだから、と２人は暫く一緒に走る。そうしながら話していると、『夢』で戦っていた時から彼女は随分穏やかになったように思えた。
「えーっと……呼び方、みりちゃんでいい？」
「うん、いいよ」
　そう答えた実理は、どこか嬉しそうな顔をしていた。　

（思いのほか、走るのは楽しいですね……）
　幸太と共に走っていた時子は、タオルで汗を拭きながら休憩していた。ランニングのコツや給水・休憩のタイミングなどを聞きながらのランニングは、とても勉強になる。
「基礎体力をつけるコツは、定期的な運動と、栄養バランスの整った食事、質の良い睡眠。そして、回復力を高める休息を取る事なんだ」
　スポーツドリンクを飲みつつ、幸太はのんびりと答える。時子はメモを取りながら耳を傾け、相槌を打つ。
「この休息は、肉体的な疲労の回復を主な目的とする『消極的』な物と気分転換を主な目的とする『積極的』な物があるんだ。俺の場合、今日のランニングはある意味『積極的』な休息も兼ねているんだよね」
　そう言いながら笑う幸太の顔はとても明るい。時子は相槌を打ちながらもこの４つが大事なんだな、と頭にインプットした。
「これが基本的なコツなんだ。他にも相談に乗って欲しい事があったら乗るよ」
「はい、ありがとうございます」
　時子は笑顔で礼を述べた。

　テニスコーチとして動きながらも、玄は商品の紹介も忘れない。彼はにこやかな笑顔で商品を手に紹介したり、ラケットのガットについて説明したりしていた。
「昔はショップやスクールごとにラケットのガットの張り方が違っていて、違う店でいつもと同じ数のポンドでも、張り上がり具合が違うってことがあったですよ！」
「そうなんですか？」
　参加者の言葉に頷き、玄は楽しげに言葉を続ける。
「今は公式大会で長年、オフィシャルストリンガーを務めた企業がストリンギング技術を検定しているですよ！　だから認定された店で、張りについて相談するといいですよ！」
「この辺りで、認定されたお店ってありますか？」
「シーサイドタウンのスポーツ用品店に、２、３件あったと思うですよ！　少し待ってほしいですよ！」
　玄はスマートフォンを手早く操作し、目的のお店を見つけると参加者さんにお勧めの場所を教えるのだった。
　彼のお仕事は、まだまだ続きそうだ。