授業風景～日本史の時間の場合～｜リアクション

授業風景～日本史の時間の場合～

「IFの世界かあ、面白いよねえ。好き勝手言えるし、ろまんろまん」
　桜庭円はそっと呟いて、黒板の前に向かった。
「信長といえば合理主義なイメージ。あと、ボクも信長は怖い人とは思えないんだよね。松永久秀さんを３回も許そうとするなんて……
　さて、もし信長が殺されていなかったら、秀吉・家康の天下統一はなくなるよね。日本の首都は東京ではなく安土城付近になるのかな？」
「安土城は信長の権威を示す壮麗な建築だったそうだから、当然天下統一後も拠点にしたと思うよ。信長のことだから、合理的な理由が見つかれば拠点はすぐに変えたかもしれないが」
　好きな戦国時代ネタということもあり、若杉先生も本気度が高い。
「混乱期にトップが代わった豊臣政権はすぐ滅びたけど、それに比べれば団結力は強固だろうし、信忠への引き継ぎもスムーズに行くと思う。
　ボクも、信長は天皇を残すと思う。世論を味方につけるためにね。お金を援助しつつ、持ちつ持たれつの関係は変わらないんじゃないかなぁ。
　ボクの考えと、さっきの刀くんの意見で、違う点がある。信長も秀吉と同じように、キリスト教には規制をかけたと思うんだ」
「意外だな。それはどうしてだ？」
　刀の疑問に、円が答える。
「アジアを植民地化するヨーロッパの危険性だね。サン・フェリペ号事件もきっと起きただろうし、スペイン・ポルトガルへの防衛戦を張るためにも、信長も朝鮮・明と一戦交えることになるんじゃないかな。あの時代、ヨーロッパの経済的影響力はすでにアジアでは強かったから」
「サン・フェリペ号事件とは、1596年にスペイン船が日本に難破して、積荷を没収された出来事だ。このとき、スペイン人の船員が侵略をほのめかす脅し文句を吐いたことが、秀吉のキリスト教弾圧に拍車をかけることになった」
　先生の解説に続けて、円は発表の続きを始める。
「でも、使節や留学生の派遣は、世界中に積極的に行うと思う。その中から、気に入った政策や技術を真似して、取り入れることは絶対にやるよね。
　信長は怖い噂も多いけど、実際は家臣には優しかったとは思うんだ。乞食のことを心配してたとかの話もあるし。で、想像なんだけど、織田政権は徳川幕府よりは締めつけが緩そうだし、極めて危険なものでない限り許容される国になってて―――今の少し硬い日本よりは、ちょっと明るい日本になってたのかな、て思います」
　話し終えた円に、若杉先生がコメントを加えた。
「発表お疲れ様。楽市楽座のように、経済の自由を促した信長なら、きっと統一後の気風も徳川とは違っていただろう。日本全体の気質にも影響があったというのは、大げさな想像ではないよ」