授業風景～日本史の時間の場合～｜リアクション

授業風景～日本史の時間の場合～

１．
「いち、にい、なな……うーん……」

　桃川圭花は、歴史の資料集と悪戦苦闘していた。先週、日本史の若杉勇人先生が唐突に発表した特別授業の準備をしているのだ。普段の歴史の点数が壊滅的なので、点数を稼げたらと思って調べているのだが……

数字に弱い圭花は、“1274”“1281”のような年号を目にするだけで、拒絶反応を起こしてしまうのだ。
「えーと、こっちが前で……あれ？」
　理解力は5歳児程度まで退行。文永の役だの弘安の役だのの時系列はごちゃごちゃだ。

「もう、数字が悪いのよ！よし、こうしてこうして……と」
　業を煮やした圭花は、教科書や資料集の年号部分を修正テープで隠してしまった。
「あは、どんなもんよ！」

　暴挙である。

　それでも、なんとか理解はしやすくなった。圭花の選んだテーマは、「鎌倉時代、もし日本がモンゴルに征服されていたら」。外国とのかかわりもあるので、人名などがややこしい。紛らわしい片仮名の固有名詞に悩まされながら、物事を単純化しつつ、モンゴル帝国についての記述を読み進めるのだった。

※

「やっぱり、モンゴル関係の資料は少ないですね……」
　椿美咲紀も、日本史の特別授業の下調べをしていた。図書館に来てみたものの、モンゴル帝国や元朝についての本は少ない。このあたりは、世界史でもあまり深くは掘り下げないのだ。
「馬が好きだから、モンゴルをテーマにしてみたけど……」
　気を取り直して、今度はパソコンをつけてインターネットから調べてみる。ひとまず某ペディアにアクセスしてみたが……
「わわ、目がストライキを起こしそうです！」
　モンゴル帝国どころか元寇でさえも1ページの文字数が多すぎる。
　でも、戦国時代や幕末の複雑さ、難しさはこんなものではない。どう考えても他のテーマは無理だ。
「このテーマで頑張らなくちゃ……。いいもん頑張るもん、ふええ……」
　美咲紀は、半分涙目になりながら資料を読み込んでいった。

※

　発表の前夜、八神修は自室のパソコンの前で思案していた。
「織田信長がもし、本能寺で殺されていなかったら」
　じゃれつく愛犬のカーキーをなでながら、修はいつかの冒険のことを思い起こす。
　歴史にIFはありえないが、歴史を変えたいと思ったことならある。
　1582年の運命の日、あの場所に行った日―――あの後、歴史はどうなったのだろう。普通に考えれば大枠は変わらないと思うが、飛躍した発想で遊んでみたくもある。
　修はマウスを動かし、パワーポイントの資料を手早く作り始めた。図表や地図などもいれ、見やすいものを心がける。

※

　夜が更けつつある同じころ、メアリ・ラングストンもパソコンとにらめっこをしていた。このままの勢いでは徹夜しそうである。
「むー……。お、これは！」
　煮詰まっていたメアリの顔が輝く。どうやら、ネットで調べているうち使えそうなネタを発見したらしい。

　それぞれ考えをめぐらせながら、日本史特別授業の参加者たちは準備にいそしんでいた。

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