授業風景～日本史の時間の場合～｜リアクション

授業風景～日本史の時間の場合～

３．
　灯斗南は、気だるげに、しかし内心は好きな歴史の授業を楽しみつつ教壇に登った。
「もし、信長が生き残っていたら……。信長は鎖国をすることなく、積極的に海外へ興味を示していただろうな。貿易にしろ、文化交流にしろ。でも、海外に開かれていたおかげで、ポルトガルやスペインの介入も受けるだろう。当時行われていた奴隷貿易で、多くの日本人が犠牲になっていたり、悪い面も大きかったんじゃないだろうか」
「信長のあとを継いだ秀吉がキリスト教を禁じたのは、南蛮船が日本人を奴隷として売っていたから、という説がある。その意味で、灯くんの指摘は合っていると思うよ」
　先生が解説すると、桜庭円も発言した。
「ボクも、似たようなこと考えたよ。ヨーロッパの植民地化進行の計画は、あの時代は無視できない」
「開かれた外交に対して、国内はどうだったんだろう、ということも考えた。僕は、信長は俗に言われているほど暴虐ではなかった、と思う」
　今度は、八神修が手を挙げた。
「それは俺も同意するよ。部下を切り捨てたり、古い宗教を弾圧したりしたのも信長の合理性ゆえで、残忍な人間なわけではなかっただろう」
「そう、権威を否定しているようで、きちんと天皇家を立てる態度を示している。そういう意味では、中国の三国時代の曹操にも似てると思う。彼も、実力があったのに結局皇帝の座を奪ったりはしなかった。案外、信長が天下をとっても、昔の秩序は保たれたかも」

「信長と曹操が似ているというのは、よくある意見だね。曹操の場合は、息子の曹丕が皇帝の位を奪ったけど、織田政権の場合はどうなったろう。そのあたりを想像しても面白いと思うよ」
　若杉先生のコメントとともに、次の発表に移る。