吹雪に閉ざされた洋館にて……｜リアクション

吹雪に閉ざされた洋館にて……

●恐喝者

（黒崎……本当に死んじゃったのね）
　メイドの碧南は知っていた。
　実は黒崎とこの洋館の主人とは浅からぬ因縁があった。
　何度か黒崎は洋館を訪れて、そのたびにこの男がどこか癇性な笑みを浮かべて立ち去るのを見た。
　それを見送る主人の顔は屈辱に歪んでいた。
　洋館の主の過去を知っていた黒崎は、それをネタに強請っていたのだ。
　実は碧南は黒崎の愛人で、主の監視のためにこの屋敷に派遣されてきた。
　黒崎が死ぬ少し前、短く激しい情事の後のベッドの中で。
　予感があったのだろうか、黒崎は碧南の耳元で囁いた。
「碧南、俺が死んだら、お前があいつを支配しろ」
　と。
「これからは私が、黒崎の代わりに……」
　残酷な本性を顕わに、碧南はほくそ笑む。
　だがメイドの自分では、主人になめられるかもしれない。
（ひと工夫必要かな）
　碧南は紙に何か書いて、主人の部屋のドアの下に差し込んだ。

（黒崎が死んでくれて助かったが……なんで客まで？）　
　絢の死の報告を受けて草太郎は動揺していた。
　考えにふけるあまり、部屋のドアの下に差し込まれた紙切れに気づかず蹴飛ばしてしまった。
　紙切れは風に乗って運ばれ、別の部屋のドアの下に……

「皆のアリバイはどうかしら？　嘘をついている人がいればその人が怪しいわね」
　美野梨はまずメイドに聞き込みをしようと考えた。
「ブリジット先生はどう思う？」
　だが返事がない。
（また殺人が起こるなんて）
　ブリジットは混乱していた。
「ブリジット先生？」
（何かブリジット先生の態度が妙ね……）
　いぶかしむ美野梨の前で、ブリジットは頭を抱える。
「ハッ！　まさか、手あたり次第？」　
　視線を落としたブリジットは、部屋のドアの下に差し込まれた紙に気づいた。
「Ｗｈａｔ？」
　紙を引っ張り出し、読んだブリジットは青ざめる。
「ブリジット先生？　なあに、その紙？」
　美野梨の問いに慌ててごまかす。
「なんでもありませんわ、お買い物メモかしら！」
「そう？」
　その紙にはこう書かれていた。
『オマエノ　アクジハ　シッテイル　ニゲラレナイゾ』

　夕食は、執事の弥生の監視のもと調理されることになった。
「……紫苑さんはどこへ行ったの？」
「さあ……聞いてません」
　怜と碧南は首を振った。
「……すみません、遅くなりました」
　紫苑が顔を出す。
「一人で行動するのは危ないわ。気をつけてちょうだい」
　弥生にたしなめられ、紫苑は微笑んだ。
「すみません、気をつけます」
　素直に謝ったものの、紫苑は思っていた。
（皆が集まる時にちょっと遅れて行ったり、夜中に洋館を見回ってみたり、折角だから、あからさまに怪しい事してみようかしら？）

　夕食に呼ばれ、食堂に皆が集まった。
　しかし、何人かが欠けている。
「お父様は？」
　美野梨の問いに怜が答えた。
「旦那様は食欲がないとのことで……お部屋でお休みです」
「おや、どうしたんだい？　みんな元気がないね」
　洋二がのんきに言う。
「お前、事件の時姿をくらましていたな。もしや冥府の使者なのか？」
　樹の問いに、
「事件？　僕は部屋にこもって絵を描いてたんだが何かあったのかい？　僕にとっての事件は、メイドさんとぶつかってお茶をこぼしてしまったくらいだね」
　飄々と洋二が答えた。絵に夢中で事件に気づいていなかったらしい。
「お茶を？　鷹取さん、それはいつのこと？」
　美野梨が食いついた。
「絢さんと真優理さんがお風呂に出て行った後だよ。しばらくして僕が部屋に戻る途中、メイドの紫苑さんとぶつかって、彼女が運んでいたお茶をひっくり返してしまったんだ」　
「そのお茶って……緑のカップの」
　ブリジットが口をはさむ。
「そうだよ。旦那様のカップが割れなくてよかった、って彼女は言って、元来たほうへ引き返していった。僕も手伝おうかって言ったんだけどね……」
（なんてこと。毒入りのお茶はこぼされてしまったのね）
　ブリジットが歯噛みする。
「カップの中身が変わった？　ならば……くくく、冥府の使者は唯一ではなかったということかな」
　樹が左目を押さえた。　
　　
　夕食は美味しそうなごちそうだったが、食欲がない者も多かった。
　だが普段通り食事をしている者もいる。
　サキリの隣に座った柚春が言った。
「とてもきれい好きなのかな、何度も手を洗ったかのように石鹸の香りがしますね」
「……さっき遺体を運んだからね」
　ナイフで肉を切るサキリの所作は優雅だった。
　その様子を、柚春はじっと見つめていた。
　　
　

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吹雪に閉ざされた洋館にて……

シナリオ

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