吹雪に閉ざされた洋館にて……｜リアクション

吹雪に閉ざされた洋館にて……

●闇に隠れて

「どうしたのかね、碧南さん」
　碧南は、屋敷の主人、草太郎の部屋を訪れていた。
「手紙は読んでくれたかしら」
　いつもの可愛いらしさをかなぐり捨て、碧南はヒールを履き黒い笑みを浮かべていた。
「手紙？　なんのことかね」
「とぼけないで。ドアの下にメッセージが挟んであったはずよ」
「そんなものは知らんよ。なんと書いてあったんだい？」
　その手紙こそ、ブリジットが見つけた脅迫状だった。
　何やら手違いがあったことを感じつつ、碧南は気にせず自分の正体を告げることにした。
「残念でした、ご主人様。黒崎が死んで安心したでしょうけど、私はあなたのしたことを全部知ってるわ。これからは私が骨の髄まで絞り尽くして差し上げますわ」
「なんだと……私は知らん！　あの女のことなら、黒崎が勝手に！　私だけじゃない、ほかの奴も！」

　その言葉をこっそり廊下で聞いている者があった。
　メイドの怜……いや、それは仮の姿。
（怜なんて奴、この世に存在しねえよ）
　滝原レオンだった。
（姉さんの敵は俺がとった。ここの旦那が黒崎と懇意だと知って、メイドとして潜り込んで機会を伺ってたんだ。まさかこんなに早くチャンスが巡ってくるとはな……）
　だがまだ終わっていない。
（黒崎の奴、学校の金を横領したことを姉さんに知られて……その口封じに！　だが黒崎以外にも姉さんを殺した犯人がいる。もうこうなったら何人殺ろうが同じだ、皆殺しにしてやる）

「邪魔が入るといけないわね」
　ドアに近づいてくる碧南の足音に、レオンは急いでその場を去ろうとした。
　だが、背後から伸びてきた腕に捕まった。
　羽交い絞めされ、闇に引き込まれる。
　喉元にはナイフの切っ先が突きつけられた。
（は……？　うそ、だろ……まさか、俺、が……）
　信じられない思いで見上げれば。
「お前が、黒崎を殺したのか」
　銀髪の男が、同じく銀髪のレオンを押さえ込んでいる。
　サキリだった。
「……そうだ。俺の姉さんは教師をしてて、数年前に死んだ。自殺で処理されたけど、本当は違う。あいつに……黒崎に殺されたんだ！」
　レオンの告白に、しかしサキリは全く感情を動かさなかった。
「黒崎は俺がマークしていた獲物だった。なのに横取りされるとは実に不本意だ。相応の報いを与えてやる」　
　サキリの赤い瞳が、レオンを見つめていた。
　一筋たりとも容赦を感じさせない狂気がその目にはあった。
（……俺は、ここで死ぬのか。最大の目的は果たしたんだ、もう生きてる意味はない）
　レオンは覚悟した。

「そこまでよ！」
　真優理が叫んだ。
「冥府の使者よ、頚城より解放されるががよい。貴様たちの命運は尽きた」
　樹がかっこよく決める。
「いや……サキリさんは犯人を捕まえただけだ。そうだろう？」
　すがるような眼で柚春が言う。
「ハッ、武器もなしに俺を止めるつもりか？　俺は殺し屋だ。表沙汰になってないがかなりの人数を殺している。お前たちも俺の獲物だ」
　サキリはレオンの喉を掻き切ろうとする。
「武器ならあるわ」　
　現れた美野梨の手には猟銃が握られていた。
「撃てるなら撃ってみろ」
　サキリはレオンを銃口に向けて押し出し、駆け出した。
　そして窓を開けると、夜の闇の中へ飛び降りた。
「逃げたか」
　樹が窓の外を見るといつの間にか吹雪は止んでいた。
　サキリの足跡が雪の中に点々と残っていた。
「お嬢様、怜が！」
　ブリジットが叫んだ。
「ああ……これでやっと、姉さんのところ、に……」
　レオンの背中には深々とナイフが突き立てられていた。
　レオンは懐から取り出した薬を、自分の口に入れる。
「黒崎先生に使った毒……？」
　ブリジットのつぶやきに、レオンは頷いたように見えた。
　やがてレオンは痙攣し、口から血を流して事切れた。

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