吹雪に閉ざされた洋館にて……｜リアクション

吹雪に閉ざされた洋館にて……

（許さない、絶対許さない……ころしてやる）

〇吹雪の洋館と第一の事件

「絢ちゃん！　大丈夫？　頑張って！」
　強烈な吹雪の中、前方を行く従姉の水谷真優理に必死について行きながら、青山絢は首を上下に振って見せた。
　キャリアで神奈川県警のエリート刑事である真優理は、こういう時には頼りになる。
　忙しい真優理はようやく取れた休みを「大好きすぎてつらすぎる」従妹の絢と雪山へスキーに出かけたのだが。
　雪山で滑り出して３時間もしないうちに急に山の天候が悪化し、猛吹雪に見舞われて遭難しそうになってしまった。
「あそこに家があるわ！　休ませてもらいましょう」
　真優理の声に前方を見れば、吹雪の中に確かに灯りが見えた。
（助かった……）
　折れそうな心を奮い立たせ、絢は真優理と共になんとか洋館へとたどり着いた。

「大変でしたね。部屋はたくさんありますので、雪が止むまでごゆっくりお休みくださいと主人が申しております」
　絢たちを迎えたのは、執事の樋口弥生と、メイドたちだった。
　客間にはすでに何人かのお客が座っていた。
「温かい紅茶とお菓子をどうぞ。今お風呂を沸かしてますのでちょっとお待ちくださいね」
　明朗闊達に世話を焼いてくれる、メイドの羽生碧南。
　可愛らしい容姿と180センチの高身長がアンバランスだが、それが一種の魅力を湛えている。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
　吹雪の中疲れているだろうに、真優理はたおやかで礼儀正しい社会人としての振舞いを崩さない。
（すごいなあ、真優理さん。仕事中でもないのに）
　暖まってきた体にほっとしながら、ぼーっとした頭で絢はそんなことを思う。
「大変でしたね。僕も吹雪に巻き込まれてこちらに避難してきたんです」
　銀髪のサキリ・デイジーカッターは、旅行者だと名乗った。
「こちらのご主人とは、知り合いの知り合いですよ」
「僕は鷹取洋二、画家だよ。こんなに雪がひどいとは思わなかったな」
　ワカメ頭の男も名乗った。
「稲積柚春。調香師をしているよ」
　マッシュパーマで中性的な魅力のある女性はそう名乗った。
「我が真名を明かすわけにはいかないが……人は我を折河樹と呼ぶ」
　いかにも厨二っぽい少年は、よくわからない名乗りをあげた。
　
「お風呂が沸きました～、どうぞ～」
　ロングヘアのメイド巫部紫苑が、真優理と絢を呼びに来た。
　お風呂場に案内され二人きりになると、真優理が急にくねくねしだした。
「絢ちゃんとお風呂！　ああっ、刺激が強すぎ！　鼻血出ちゃったらどうしよう！」
「真優理さん……」
　真優理は非常に「デキる女」だが、スキあらば従妹大好き残念無念アラサー女子になり果てる。
（困ったものだわ）
　幸いお風呂場は広く、湯気が立ってあまり体は見えない。
　一刻も早く暖まりたいので、真優理のことは気にしないことにした。
　熱めの湯船に入ると、冷え切った手足がじんじんと温まっていく。
「ああ、生きててよかった……」
　しかし、平穏な時間はそこまでだった。
　ガチャン。
「え、何の音？」
　二人が顔を見合わせていると。
「キャーッ！」
　女性の悲鳴が館に響き渡ったのである。

　

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