みかんを駆逐せよ｜リアクション

みかんを駆逐せよ

　７　小鳥に教えてもらいつつ

（みかん狩り、楽しみですね）
　果樹園の入口でみかん宇宙人から竹籠を受け取り、御巫時子はみかんの生る樹の群れを見て微笑んだ。

「この鋏で枝を切るミ！　籠からみかんが落ちたらアウトだミ！」
「分かりました。じゃあ行ってきます」
　時子は籠を抱えて、果樹園に入った。果樹園の中の樹はどれも同じようなのにどれも違っていて、そこに生っている果実も、同じようでいてどれも違っていた。
　ひとつふたつとみかんを収穫しながら、時子は色んな樹の間を歩き、見て回る。そのうち、上の方に色の濃いみかんがあるのを見つけた。なんというか……先程、籠を渡してくれたみかん宇宙人の頭の色によく似ている。あの頭の中身が美味しそうだとは思わないが、このみかんは――
「このみかんは、色が濃くて、美味しそうですね」
　皮のキメも、かなり細かい。時子はこの果実を丁寧に切り取って、籠に入れた。
「選ぶのも楽しいですね」
　ゆっくりと、マイペースに彼女はみかんを摘んでいった。取り立てのみかんに鼻を近付けると、柑橘系の良い香りがする。
　果樹園には、みかんの匂いにつられた小鳥達も集まっていた。
「こんにちは」
『こんにちは！　今日はいい天気だね！』
「いい天気ですねー……。今日はみかん狩りに来たんです」
　そんな他愛の無い会話や挨拶を、小鳥達と楽しむ。時子にとって、鳥に会ったら話し掛けるというのはもうごく自然なことだった。
『そうだ！　もうちょっとあっちに行くと、坂みたいになってるところがあるよ。気を付けてね！』
　ありがとうございます、とお礼を言って、小鳥と別れる。
　先に進むと、確かに坂になっているところがあった。実の方ばかりを見ていると、足を滑らせてしまいそうでもある。集めたみかんを転んでこぼしてしまわないように、慎重に時子は坂を下りた。
　斜面に植えてある樹にも、みかんはたくさん生っていた。それを、時子は夢中になって摘んでいく。
　いつの間にか、縁からはみ出そうなくらいに竹籠にみかんが入っている。
「ふぅ、このくらいでしょうか……」
　筋肉痛になりそうなくらい、籠が重い。
　スタート地点にまで戻ると、柑野夫婦は嬉しそうな顔で時子を迎えた。
「いっぱい取ったなあー」
「今年は良いみかんがたくさんできたものね」
「美味しそうなみかんが多くて、ついつい狩り過ぎてしまったみたいです」
　籠を抱えて、少し照れながら時子は言った。柑野夫婦は、持って帰りたい、と彼女が言うだけのみかんを持ち帰れるようにしてくれた。その、やっぱり筋肉痛になりそうな重さの袋を持って、次に時子はカフェに向かった。
　ちょっとだけ、休憩したいと思ったのだ。

　みかんのパフェと紅茶を頼んで、窓際に座る。
　まったりとスイーツに癒されているうちに、寮から迎えの車が到着するだろう。
　そう思っていたのだけど、パフェを食べ終えても、まだ迎えの車が来る気配は無かった。ちょっと手持無沙汰になって、時子は先程取ったばかりのみかんをひとつ剥いた。途中で破けないように丁寧に皮を剥き、半分に割って一房を摘む。すっぱすぎないちょうど良い甘さが、口の中に広がった。
　車が来るまでに、もうひとつくらい軽く食べられそうだった。