みかんを駆逐せよ｜リアクション

みかんを駆逐せよ

　４　無自覚な間接キス

　刀と千歳は、英二と別れた後、みかんスイーツカフェを訪れた。みかん狩りをする前に甘い物を食べようということになったのだ。
　テーブルについて、１枚あるメニューを２人で覗きこむ。
「……色々あるわね」
「とりあえず店員さんを呼ぼうか。……すみません」
「はい、ご注文はお決まりになりましたか？」
「えーと……お勧めとかはありますか？」
　刀が訊くと、店員は笑顔で「はい」と答えた。
「今は、みかんのモンブランがお勧めです。中にはみかんのムースが入っていて、クリーミーで美味しいですよ」
「じゃあそれと……みかんケーキとタルト、飲み物は珈琲でお願いします。千歳は決まった？」
「ええ。私はみかんゼリーとパフェを。それに、ストレートティーをお願いします」
　やがて、テーブルに注文した商品が続々と並ぶ。千歳は初めに、みかんゼリーにスプーンを通した。
「……なかなか美味しいわね」
　味わいながら、千歳は思う。
（みかんゼリーは作ったことないけど、今度試してみようかしら）
　このゼリーはシンプルだが、彩り的に何かアクセントになるようなものをトッピングしてもいいかもしれない。
（みかんの外皮を器にするのもいいわよね）
　中身はくり抜いて、ゼリーの材料にするとして……
「千歳、それも美味しそうだな。ちょっとくれよ。俺のも少しあげるからさ、交換だ」
「えっ、交換？」
　考え事をしていた千歳は驚いて、刀と目を合わせた。それから彼の前に並ぶスイーツを見る。
（実はあのケーキ、私も少し興味あったのよね）
　でも、１人で頼んでもきっと持て余すから頼んでいなかった。
「うん、いいわよ」
　皿を交換して、千歳は自分が食べる分だけみかんケーキを切り分けた。次に、もうゼリーを口に運んでいる刀を見る。
「それ、さっぱりしてて美味しいでしょ？　……って」
　刀は、千歳が食べかけていたゼリーをそのまま掬って食べていた。間接キス、という言葉が脳裏に浮かび、顏が少し熱くなる。
「うん、このゼリーもさっぱりしてて美味しいな。そのケーキも中々美味しいだろう？」
　それには気付かず、刀は特に意識もなく顔を上げた。そして、千歳の表情に気付いて一度瞬きする。
「どうしたんだ？　ちょっと顔が赤いけど」
「……別になんでもないわよ」
　千歳は少し目を逸らし、すぐに戻す。
「ただ、ゼリーが美味しかったから、今度私もみかんゼリー作ってみようかなって思っていただけだから」
　これも嘘ではない。言いながら、刀君まったく気にしてないみたいね、と思う。というか、多分、気付いてないというか。
「こっちのモンブランも気になるか？　遠慮せずに食べて良いぞ」
「う、うん……」
　お気楽な調子で皿を寄越され、千歳は流れのままにフォークを取る。お勧めというだけあって、美味しいモンブランだ。
　それぞれのスイーツを戻し、残っているゼリーを食べる。涼し気なゼリーの味を堪能していると、本当に自分で作ってみようかという気分になる。
「確かに、ここで取ったみかんを使って試しに作ってみるのは悪くないわね」
「作るのか？　楽しみだな」
　刀は嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「出来上がったら、朝練に持って来てくれよ」
「すぐに試食してもらえるレベルのものが作れるかもわからないから……あまり期待してもらっても困るわよ」
　本当はかなり上手いのだが、謙遜でもなんでもなく千歳は言う。
「大丈夫だって。今日の朝練でもらった弁当も美味しかったよ」
　刀は笑って太鼓判を押す。
「材料はここのみかんで良いよな？　じゃあみかんを採ってこようか」
　話しているうちに、スイーツの皿は綺麗になっていた。残っていた飲み物を飲んで、２人は席を立った。