みかんを駆逐せよ｜リアクション

みかんを駆逐せよ

　２　みかんで秋を感じよう

　竹籠に、みかんが山盛りになっている。それを袋に詰めながら、真境名アリサはにこにこと顔を綻ばせていた。
「これだけあればジャムにママレードにドライフルーツに……この前みたいな目に遭わずにすむわね」
　先月末は、給料日前にとんでもない目に遭った。いざという時のためにみかんを使った保存食とか作れたらいいな、と思ってのイベント参加だ。
　竹籠には、これ以上は盛ったらみかんが転げ落ちる、というところまで盛ることができた。結構時間が掛かったが、秋物を着るか冬物に変えるか迷って秋物を選んで来たので、そこまで汗を掻くこともなかった。
　そして、これでエクレアを貪り食うような事態にはならないだろう。
「みかんが好きなんだね。そんなに嬉しそうにしてくれると嬉しいよ」
　果樹園のオーナーが話しかけてくる。
「みかんはもちろん好きですけど、季節を感じるイベントには積極的に出ようと思ってるんです」

　アリサは今２１歳だが、沖縄の高校を出た後で本土に行き、そこで数年間仕事をしていた。無事退職して今年の２月に今の仕事につき、やっと一心地ついたが、一年中水着という季節感のない職業ということもあり、こういったイベントで四季を感じたいと思っていた。
　とりあえず、今から保存食の作り方をちゃんと学んでおきたい。
「これからみかんクッキングのコーナーに行きたいんですが、その間、このみかんを預かってもらっていていいですか？」
「ああ。いいよ。そっちには妻がいるから、わからないことがあったら聞くといいよ。妻は料理が得意なんだ」
「ありがとうございます」
　袋詰めしたみかんを預け、アリサはみかんクッキングのコーナーに移動した。学校の家庭科室と同じ規模の調理施設だ。施設の隅には、食事用のテーブルと椅子がいくつか置かれている。
「ようこそ。今日はどんなものを作りたい？」
「ジャムやママレード、ドライフルーツ等の保存食を作りたいんですけど」
「保存食……ちょっと待ってね」
　オーナーの妻は、キャビネットまで行くとそこから１冊の本を持ってきた。２か所に付箋が付けられている。
「これがママレードジャムのレシピ、こっちがドライフルーツのレシピよ。どっちも簡単で、思っているほど時間もかからないの。これを見て作ってみるといいわ」
　レシピは写真付きのとても分かりやすいものだった。それを見ながら、アリサは材料を持って来て早速調理を開始する。ルールとしてお残し禁止、というのがあった為、食べられる分量になるように気を付けて量を計っていく。
　彼女は、ジャムやドライフルーツを作るのは初めてだった。実は、料理は得意ではない。クッキングコーナーに参加したのは、これを機に、少しは料理が出来るようになればという思いもあったからだ。
　スライスしたみかんを鉄板に並べてオーブンに入れ、ドライフルーツが出来るのを待つ。鍋でジャムを作り始める前に、アリサはまずドライフルーツのレシピをメモし始めた。時計を見ると、そろそろ今日開催の競馬の第一レースが終わった頃だ。
　携帯電話で軽く結果を確認し、がっかりしながらも何とか調理へのやる気を引き戻して鍋に材料を入れる。
　みかんが甘いジャムになるまで、彼女は慎重に鍋をかきまわし続けた。

このページにイラストを設定する