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【寝子祭】歌って踊って楽しんで
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1年4組
:喫茶店『宇宙×魔法使い』、1年4組の教室(南校舎1階)
寝子島高校の正門に設置されたアーチを
御薗井 E セレッソ
は眺めていた。無数の原色が犇めいてサイケデリックなテーマを体現した。
セレッソはアーチに装飾された、多くのハート型の飾りに笑みを浮かべる。金色、銀色、ピンク色と目にも賑やかであった。
「ワタシが苦労して作ったのヨ」
製作時の苦労を思い出したのか。誇らしい顔になる。
「喫茶店もがんばるネ」
校舎の方に青い瞳を向けると全力で走り出す。生じた風で赤い髪が炎のように揺らめく。三つ編みの先の膨らみはチアリーダーが扱うポンポンのように勢いよく振られた。
教室の黒板には宇宙を模した幕が張られた。陽光が射し込む窓にも同様の宇宙が表現されていた。蛍光灯は深い青色のセロファンで覆われ、スイッチを入れるとプラネタリウムが見せるような星々を映し出した。
その独特な空間に
浮舟 久雨
は馴染んで見えた。白と青を基調にした魔女らしい格好で細部を見て回る。
教室の隅には宇宙然とした模様の垂れ幕が下げられていた。久雨は近づいて端の一部を握り、軽く引っ張ってみた。
「問題はないか」
垂れ幕の裏側は簡単な調理場になっていた。コの字型に組まれた机には電子レンジやホットプレート。電気ケトル等が置いてあった。小さいながらも冷蔵庫まで完備されていた。
「持ってきて正解だな」
久雨は冷蔵庫の中身に目を通す。星形のミニゼリーは型崩れをすることなく収まっていた。冷凍庫に入れてあるアイスにも問題は見られない。ストックのドーナツやクッキーも用意されていた。ジュース等に入れる氷の蓄えも十分にある。
薄野 五月
はテーブルの配置に心を砕く。周囲のバランスを考えて動かした。テーブルクロスは中心にくるように手を加える。
「浮舟さん、テーブルの位置を見てくれますか」
「わかった」
久雨は調理場から出てきた。テーブルの位置を端から眺める。
「完璧だ」
口にしたあと、五月の姿に目を向ける。白いノースリーブの上にフード付きのマントを羽織っていた。紫色の生地に天の川が描かれている。キュロットスカートの見た目は軽く、動き易そうであった。
「少し髪が乱れている。マントも右に偏っているぞ」
久雨は五月の髪の一部を撫で付けた。正面に立ってマントの位置を両手で直す。二人の顔の位置は近く、五月は気恥ずかしい表情となった。
「これで本当に完璧だ」
「ありがとう、少し照れますね」
「そうなのか?」
不思議そうな顔をして久雨は周囲に目を向けた。黒い魔女の姿をした
緋紅朱 赫乃
が星の飾り付けに励んでいる。何とはなしに近づいた。
「良い香りがする」
その声に赫乃は手を止めて振り返る。匂いが強くなったのか。久雨は大きく息を吸い込んだ。
「薔薇の匂いなのかな」
久雨は赫乃の姿を見て言った。先端が折れた三角帽の鍔の上には可憐な薔薇が咲いていた。
赫乃は今朝のことを思い出した。
「いつも、薔薇の、手入れを、してるから、かな……」
「そうか。都合が合えば薔薇の詳しい話を聞いてみたいものだ」
「うん、それは、いいけど……今は、飾り付けを、頑張る、ね」
赫乃は残り二つになった星の飾りを手にした。久雨は邪魔をしないようにそっと離れる。
恵御納 夏朝
は用意した猫の縫い包みを内装に加えた。自身の魔女の姿を反映して三角帽を被っている。目にした久雨は足を止めた。
「鯨の縫い包みはないのだな」
気落ちしたような声を聞いて夏朝は猫のパペットを手に嵌める。喫茶店の仕様に合わせて三角帽を被っていた。
「鯨は思い付かなかったにゃ。猫の縫い包みで許して欲しいのにゃ」
「相変わらず、カパッと開く口が何とも可愛らしいパペットだな」
「褒められ過ぎるとハルは照れるにゃ~」
小さな手に顔を埋めるようにしてパペットは身を揺する。久雨は優しい目になって踵を返した。
「内装以外のところを見てくる」
扉に向かって歩きながら、鯨もいいのだが、と久雨は人知れず呟いた。
内装が仕上がる頃、出し物に携わる者達が教室に続々と集まってきた。何人かは急ぎの用事で出ていった。
御薗井 E セレッソ
は着替えを済ませた。体型にフィットした白銀のスーツに身を包み、魔法使い然としたマントを羽織る。
「まだナノ!」
セレッソは頭頂に手を当てて急いでカチューシャを付けた。二つの星が飛び出していて動く度に左右に揺れる。
調理場の近くにいた五月に目が留まる。セレッソは、五月チャン、と大きな声で駆け出した。
「ワタシ、今日は宇宙の魔女さんでがんばるヨ!」
「セレッソさん、頑張りましょうね。皆さん、今日はよろしくお願いしますー」
周囲から、よろしく、とこだまのように声が返ってきた。
「僕の方こそ、よろしく」
落ち着いた声で
サキリ・デイジーカッター
が言った。
赤い双眸と銀色の髪が神秘的で、個性的な青い衣装は堂に入った魔法使いに見える。左手には歪な白銀の杖を突き、その威厳を高めていた。
「それにしても僕のクラスは女子の比率が高いね」
サキリは赤い目で周囲を見やる。急に何かを思い付いたような表情を浮かべた。
「このような時に使うことわざは……馬子にも衣装?」
周囲から突き刺さるような視線を向けられた。サキリは曖昧に笑って見せる。
「あ、いえ、間違えました。素直に言ってとても可愛いです」
「もちろん、担任も可愛いよー」
久保田 美和
が弾むように教室に入ってきた。周囲と同じで凝った衣装に身を包んでいる。銀色のカチューシャには星が付いていて流星を思わせた。白を基本にした外套のボタンには黄色い星が輝いている。
「みんな、ちょっと来て。最後に気合を入れるよー」
美和の言葉で居合わせた者達が集まる。
「それじゃー、良い男を引っ掛けるつもりで、どんどんお客さんを迎えて頑張ろう!」
「それができれば美和ちゃん先生も今頃は、ウ、ウウ」
「迫真の泣き真似はやめてー」
生徒達から笑みが零れる。良い意味で肩の力が抜けた。
間もなく開店の時間を迎える。
様々な色の生地を貼り合わせたようなワンピースに皮のロングコートを合わせる。色は臙脂と控え目であった。
「懐かしいわね」
三夜 深夜子
はセミロングの髪を弾ませて廊下を歩く。似たような出し物を素通りして、ふいに足を止めた。黒い絵の看板に目を近づける。
箒に跨った魔女の周囲をたくさんの星が流れていた。
「これ、切り絵になっているのね」
幻想的なモチーフに深夜子の理知的な表情が崩れた。口元は笑みの形を作り、扉の先に入っていく。
近くに待機していた
灯 斗南
は深夜子に流し目を送る。
「僕の出番だ」
持っていた仮面を顔に被せた。一輪の薔薇は指で回しながら深夜子を迎える。
「星空と魔女の領域へようこそ」
「男の人もいるのね。恰好は魔女というよりは爵位を持ってそうに見えるわ」
「その、別のコンテストの衣装なので、そこはご勘弁を」
仮面で表情は隠れていたものの、声には僅かな揺らぎが生じる。感じ取った深夜子は言葉を付け足す。
「魔女は悪魔と契約して悪事を働く者の総称だから、男の魔女がいてもおかしくはないわよ」
「そうなんですか。詳しいのですね」
斗南の言葉に深夜子は少し慌てた。
「あれよ、別にそっち方面の趣味がある訳じゃないからね」
「わかりました。では、席にご案内します」
開店して間が無いので空席が多い。斗南は隅の方にある目立たないところに案内した。
「落ち着くわ」
席に着いた深夜子は辺りに目をやる。その間に斗南は隠し持っていた赤いキャンドルを素早く取り出し、テーブルの中程に置いた。
「星に包まれた空間に相応しい、ちょっとした魔法を今からお見せしましょう」
「その恰好で言われると、それらしく聞こえるから不思議よね」
さらりと返した深夜子の表情は期待を募らせていく。斗南は掌を上に向けた状態でキャンドルに近づけた。
斗南の頭の中に炎が灯る。掌の中央にか細く揺らめく炎が現出した。人の少ない時間帯が幸いしてイグニッションハートのろっこんは発動した。
その小さな明かりに深夜子は大いに目を引き寄せられる。
「燃えているじゃない。手は大丈夫なの?」
「ちょっとした魔法ですから」
「あ、ああ、そういうこと。手品の類いで本物の火ではないのね」
納得したような態度が瞬時に驚きに変わる。斗南は掌の炎でキャンドルに火を点けたのだ。
何でもないという風に斗南は炎を手の中に握る。開くと元の状態に戻っていた。
「魔法の時間は終わりました。ご注文をどうぞ」
「冷たいジュースを貰えるかしら。何だかとても喉が渇いたわ」
注文を終えると深夜子は熱い溜息を吐いた。
出勤途中に立ち寄った。そのようなスーツ姿で
恵御納 久隆
が校内を行く。
久隆は長身を活かして周囲の人々に目を向ける。
「夏朝はいないか」
少し前を
恵御納 理沙
がふわふわと歩いていた。長い金髪は少し波打ち、明るい海の色の服に絡んで輝いて見える。
理沙は金髪を靡かせて振り返った。青く澄んだ瞳を久隆に向けて微笑む。
「1年4組と演劇部なら、夏朝ちゃんはどちらにいるのかしら~?」
「……受付で貰ったチラシでは、1年4組が濃厚か」
「そちらが先でいいわ。急ぐわよ~、旦那様」
最後の言葉に周囲は否応なく反応した。無邪気な異国の少女に頑強なサラリーマン。そのような見た目の二人に他者の好奇心は刺激される。
久隆は理沙の手を握って速足で歩いた。
「旦那様、このくらいの速さだとスキップができるわ~」
「普通に歩くから……スキップは勘弁して欲しい」
「え~、楽しいのに」
子供っぽい笑みで拗ねて見せる。困ったような表情の中、久隆の目が少し優しくなった。
二人はチラシを見ながら南校舎の1年4組に行き着いた。看板を目にした理沙は喜びの声を上げる。
「まぁ、なんて素敵な喫茶店なのかしら! それに見て旦那様、影絵よ、影絵! 日本伝統の影絵が看板になっているわ、旦那様!」
興奮して我を忘れたように旦那様を連呼する。久隆は冷静な顔で頬の一部を引き攣らせた。
「日本の文化に触れて嬉しいのはわかるが……少し、落ち着こうか」
「落ち着くことなんて無理よ~。ほら、この影絵の魔女は絶対に夏朝ちゃんよ~。よく見て旦那様」
理沙は跳び上がって魔女を指差す。久隆は周囲を気にしながら、そうだな、と一言で済ませた。理沙の背中をそれとなく掌で押して扉の中へと誘導した。
「みんな、魔女らしくて可愛いわ。この中に夏朝ちゃんもいるのかしら?」
「いるはずだが」
久隆は高みから目を動かす。じっとしていられない理沙が前に出た。
「夏朝ちゃん、どこにいるの~。お母さんが来たわよ~」
幼い子供に呼び掛けるような声に背中を向けていた一人が固まった。嬉しさと恥ずかしさを混ぜ合わせたような表情で振り返る。
我が子を見つけた理沙は笑顔で手を振った。
「夏朝ちゃん、お母さんはここよ~。旦那様も一緒よ~」
「理沙、そのくらいで」
久隆のやんわりとした制止の最中に
恵御納 夏朝
は走り寄る。休む間もなく猫のパペットを装着して語り出す。
「ようこそ、星空と魔女の領域へ。まずはお出迎えの祝福をハルが……にゃー!」
「愛らしいおまじないをありがとにゃー」
目を細める理沙に夏朝は、こちらですにゃー、と素早く向きを変えて歩き出す。空いた席に二人を座らせると、パペットを使ってテーブルのメニューを引き寄せた。
「ご注文をお聞きしますにゃ」
「私は、そうねぇ……星座セットの双子座に緑茶を一つ、お願いしようかしら♪」
うきうきした理沙が隣の久隆に目を向ける。促される形で口を開いた。
「それでは、惑星セットと、コーヒーをブラックで頼むとするか」
わかりましたにゃ、とパペットが大きく頷いた。注文を独特な口調で繰り返したあと、出番は終わったとばかりに手から外された。
夏朝は魔女らしく、神妙な顔付きとなる。
「星々の魔力を集めて、ご注文の品を召喚いたします」
「夏朝ちゃん、可愛いわ~」
理沙に抱き付かれた夏朝は、魔力が拡散します、と遠回しに注文の遅れを仄めかす。久隆の宥める声の介入で自由を得ると、早々に調理場へと走っていった。
調理場に客からの注文が伝えられた。
「緑茶は僕に任せてよ」
サキリ・デイジーカッター
が真っ先に手を挙げた。
「確か、サキリは茶道部だったな」
浮舟 久雨
に、そうだよ、とサキリは答えた。
「コーヒーや紅茶の淹れ方も練習してきたんだ」
「その気持ち、何となくわかります」
話を聞いていた
薄野 五月
が自身を振り返るような表情で頷く。
「私はパンケーキを担当するとしよう」
その言葉を合図に全員が作業を開始した。
久雨はホットプレートを加熱する。その間にボウルで生地を作って手早く流し込んだ。お玉の底で表面を軽く撫でて成形。両面をこんがりと焼き上げた。
「あとはチョコペンで星座を描くだけか」
「浮舟さん、私に任せてくれませんか」
五月は表情に自信を覗かせた。
「わかった。私はもう一つのセットに取り掛かる」
「くーちゃん、あと少しでセットに付けるクッキーがチンできるアルー」
畑中 華菜子
は電子レンジの中を中腰で見ている。髪型は左右のお団子。黒いワンピースの上に赤いものを重ね着していた。他の三人と同様にエプロンも付けている。
その姿に久雨は薄っすらと笑みを浮かべた。
「ラーメンが出てきそうだ」
「何回も考えたアルヨ。大きい寸胴や火力の問題で諦めたアルー」
華菜子の悔しそうな表情に久雨は、仕方ない、と朗らかに返した。
「僕も樋口先生直伝のフレーバーティーを提供したかったな。時間が足りなかったんだけどね」
サキリはコーヒーを淹れながら口にした。
「浮舟さん、双子座が完成しました」
五月は皿を差し出す。パンケーキの一枚に双子座のシンボルがしっかりとした筆致で描かれていた。
「線にぶれがないな」
「双子座は単純なので助かりました。蟹座や乙女座は作りが複雑なので注文が入れば少し緊張すると思います」
「困った時は私達を頼ってくれ」
久雨の言葉に呼応して華菜子は自身の胸を軽く叩いた。
「偉大なラーメンパワーでどんな問題も解決するアルヨ! はい、クッキーと星形のミニゼリー、お待ちどおさまアルー」
「ここは喫茶店だからな」
苦笑いする久雨に華菜子は胸を張って言った。
「いつも心にラーメン、アルヨー」
「格言みたいに聞こえますね」
五月は微笑んで皿の縁にクッキーとゼリーを乗せた。完成した一品を見た久雨は、むう、と小難しい顔で声を漏らした。
「もう少し彩が欲しいな」
砂糖として使っていた星形のカラーシュガーを添える。興味深げに五月と華菜子は見ていた。そこにサキリが加わった。
「どうだろうか」
「くーちゃん、最高アルー」
「見栄えが良くなったと思います」
「男の僕が見ても悪くないと思うよ」
久雨は、そうか、と小さな声で言った。
「僕の方も終わったよ。緑茶は香りを失わないように手順を守った。コーヒーは今日のために用意したシルクの布で丁寧に淹れたつもりだ」
見計らったようなタイミングで
恵御納 夏朝
が顔を出した。
「皆の力を結集して完成させたぞ。さあ、運んでくれ」
清々しい笑顔で久雨は夏朝を送り出した。
トレイの上で注文の品が押し合う。そろそろと歩いて夏朝は両親の元に運んだ。
「召喚に成功しました」
テーブルに順々に皿を置いていく。
恵御納 理沙
は青い瞳を見開いて全身で震えた。溢れる喜びに声を上げる。
「これが星座セットね! 惑星セットも可愛い~!」
「……ドーナツの中央にアイスがある。これが惑星セットなのか」
理沙の隣で
恵御納 久隆
が思案顔で口にした。
「それでは星空と魔女の領域をご堪能ください」
去ろうとした夏朝を理沙が引き留める。
「何かご用ですか」
「美味しくなる魔法をお願いしたいわ~」
ほのぼのとした態度で一人の人物を指差した。青と白の二色を配したワンピースに魔女らしい三角帽を被っていた。左手にはピンクのステッキを持っている。
仲村渠 鳴
は茶目っ気のある魔法少女に成り切ってステッキを振り上げた。
「皆の希望があたしに力をくれるわ。感じる、温かくて力強い魔力の膨らみを――」
そのままの姿勢で鳴は瞼を閉じた。魔力の増大を演出しているようだった。
瞬間、鳴は目を見開く。
「魔力は満ちたわ! あたしの美味しくなる魔法、発動よ!」
掲げたステッキをテーブルの品々に向かって振り下ろす。直後に先端にピンク色の淡い光が灯る。一連の流れに客は大いに喜んだ。
「あたしは皆の希望の星になって宇宙を渡るわ」
ウィンクを一つ残して鳴は軽やかに立ち去った。
理沙は満足した顔で夏朝に目を戻す。
「夏朝ちゃん、あの美味しくなる魔法をお願いね~」
断るという選択肢はない。圧倒的な笑顔に迫られ、夏朝は緩やかな袖口から紫色の棒を取り出す。先端には小さな星が付いていた。
「星の力を借りて……美味しくなーれ」
星の部分を品々に向ける。どこか恥ずかしそうな仕草に、可愛いわ~、と理沙が横から抱き付いた。当然の成り行きで久隆はやんわりと引き剥がし、その間に夏朝は離脱した。
「それでは頂くか」
「記念にスマホで写真を撮ってもいいかしら~?」
「構わないだろう」
久隆の許しが出たことで理沙は嬉々として写真に収めた。
二人は各々が注文したセットに目を向ける。理沙はパンケーキの一部をフォークで切り分けて口に運ぶ。食べながら蕩けるような笑みになる。
「ふんわりで甘くて美味しいわ~」
「……確かに程良い甘さだ」
久隆のアイスの部分が欠けていた。ドーナツの一部を咀嚼して満更ではない顔付きで頷く。
「理沙もアイスの部分を食べて!?」
隣に目をやった瞬間、久隆は声を失って硬直した。理沙がパンケーキの一部をフォークに乗せて微笑んでいる。口元に向けてゆっくりと差し出し、あーん、と甘ったるい声を出した。
「旦那様、あーんして~」
久隆の閉じた唇が震えて僅かに開く。間もなく理沙のフォークを受け入れて素早く口を動かした。
「……美味しいな」
強面を維持しつつ、僅かに頬が赤らんだ。
「旦那様、ゼリーやクッキーも美味しいの!」
小動物のように頬を膨らませていた。久隆は目にしながらコーヒーを飲んだ。その美味さに目を見張る。
「本格的だな」
調理場の垂れ幕からサキリが顔を覗かせていた。そこに鳴が足早にやってきた。
「何か良いことがあったみたいね」
「そんな風に見えるかい?」
「そんな風にしか見えないわよ。あ、コーヒーを二つ、よろしくね。それとライブの準備があるからあたしは抜けるけど、大丈夫よね?」
謝るような表情の鳴にサキリは、大丈夫だ、と微笑んで答えた。調理場で忙しく手を動かしていた三人は逆に励ましの言葉を送った。
「皆、ありがとう! 最高のライブにするから!」
弾ける笑顔で走り出す。客からの注文を伝えにきた
御薗井 E セレッソ
は擦れ違い様に、頑張ってネ、と声を掛けた。鳴は親指を立てて教室を飛び出していった。
サキリは踵を返して、僕もやるか、と仕事に戻っていく。
久隆は残していた一口を飲んでコーヒーカップを静かにテーブルに置いた。理沙は太い腕に頭を寄せた。
「旦那様が私に、あーんしてくれるなんて思わなかったわ~」
「祭りの陽気に当てられたか」
見詰め合う二人は手を合わせて席を立った。テーブル間を忙しく動き回る夏朝に揃って優しい眼差しを送る。
久隆がにゃっぽで支払いを済ませた。どちらともなく手を繋いで廊下に出ると、その腕を理沙が大きく振って歩き出す。
「クラスの子も、裏方の先生も、良い人達だったわね~」
「ああ、そうだな」
「この素敵な島の寝子祭を思いっ切り楽しむわ~」
理沙のはしゃぐ姿に久隆は笑みを漏らし、それもいいな、と口にした。
巫部 紫苑
は1年4組を訪れた。特徴的な切り絵の看板に目を向ける。
「ここかしら?」
ぼんやりとした様子で入っていく。そこに
御薗井 E セレッソ
が飛び出した。頭部に付けたカチューシャの星が勢いよく振れた。
「来訪者サマ、いらっしゃいませの大歓迎ナノ!」
「不思議な雰囲気のお店ですね。その姿は店名にある魔女ですか」
「ワタシは宇宙の魔女さんなのヨ!」
セレッソは大きな身振りで片手を上げる。急に小難しい顔を作り、前屈みで頭を左右に振るように動かした。
「ムム、電波を感じるヨ! こちらにどうぞナノ!」
「そういう趣向なのですね」
紫苑は無人のテーブルに案内された。メニューを手に取ると、すぐに戻して微笑む。
「紅茶と惑星セット、それに星座セットもお願いします」
「たくさん食べないノ?」
「あ、言い忘れていました。星座セットは全種類をいただきます♪」
何の気負いも見せず、さらりと口にして微笑む。注文を聞いたセレッソは無表情から、なんですノー、と慌てふためいて調理場に素っ飛んでいった。
「大魔王の襲来ですヨー!」
セレッソは激しい身振り手振りで注文を伝えた。全員が直後に目を剥いた。
逸早く動いた
浮舟 久雨
がパンケーキのストックを数える。
「足りない分は私が急いで焼く! 完成した皿から運んでいってくれ!」
「星座のシンボルは私が描きます」
薄野 五月
がチョコペンを手に取った。久雨が瞬時に言葉を返す。
「一人では時間が掛かる。ここにストックのチョコペンがあるから、誰か手伝ってやってくれ」
「僕は紅茶を淹れるだけだから手伝うよ」
サキリ・デイジーカッター
に続いて
畑中 華菜子
が名乗り出た。
「私も手伝うアルヨ! でも、蟹座と乙女座は難しそうだから五月ちゃんに任せるアル」
「それでは皆で頑張りましょう」
「ワタシは魔女さんで飛び回るワ」
セレッソは呼んでいる客の元に走っていく。
調理場の奮闘は実り、セレッソが次々と皿を運んでいく。周囲の人を気にするような目で
緋紅朱 赫乃
が手伝った。
「この、紅茶が……最後、だね」
サキリから受け取ったティーカップを赫乃が慎重に運ぶ。こっちナノー、とセレッソが手を振った。
「……お待たせ、しました」
テーブルの空いたところを目で探して、そっと紅茶を置いた。
「赫乃チャン、魔法を掛けるノ!」
「…私は、少し、苦手、だから……御薗井さん、に、お願い…したい、かな……」
「わかったヨ!」
セレッソはマントの内側から小振りな杖を取り出し、テーブルを占拠した数々の皿に向けて振った。
「どるちぇろぼーの、どるちぇろぼーの!」
「どういう意味なのかしら?」
黙って聞いていた紫苑がおっとりした調子で聞いた。セレッソの青い瞳が星のようにきらりと輝く。
「甘くて美味しくなる魔法なのヨ!」
「それでは美味しくいただきましょう」
ゆっくりとした動作で滑らかにパンケーキを切り分けて口に運ぶ。一定の速度で淡々と食べて合間にクッキーに手を出した。星形のミニゼリーは瞬く間に口の中に吸い込まれていく。
セレッソと赫乃は立ち尽くしていた。星座セットが見ている間に一枚、空になった。
「どうされました?」
「ブラックホールに飲み込まれたノ!」
セレッソは調理場に向かって駆け出した。赫乃は恥ずかしそうな顔で一礼してパタパタと足音を立てて離れていった。
「ふふ、可愛らしいですね」
紫苑は食事を再開した。滑らかな動作を繰り返し、空になった皿を重ねていく。出来た隙間に受付で貰った宣伝のパンフレットを置いた。スプーンに盛ったアイスを一口にして文字に目を走らせる。
「まずは一階の喫茶店を全て回って、次は三階ですね。北校舎と校庭にも何かありますが……取り敢えず、歩き回りながら見つけた美味しいものをいただきましょう」
ふらりと
鬼久保 美桜
が人形を抱いて現れた。テーブルの大量の皿に目を向ける。気付いた紫苑が顔を上げた。
「星座セットの量が気になりますか?」
「……ホラー喫茶にもいたよね……それに私は取材だよ……」
制服のポケットから手帳を取り出して見せる。
「またどこかで会うかもしれませんね」
「……そう、かもね」
話が終わったところで赫乃に連れられて美桜は別のテーブルに移動した。席に着くと辺りに目をやる。傍目には観察しているようにも見えた。
「かわいい内装だね……」
「……ありがとう、ござい、ます。ご注文、は、どう、され、ますか」
たどたどしい声に促され、美桜はメニューに目を向ける。関心の無さそうな顔を改めてしっかりと見た。目に付いたのは惑星セットであった。
数分後、届けられた品を見下ろし、小首を傾げる。
「土星……?」
手帳に形状を詳しく書き込む。内装や独特な衣服にも触れた。文章を読み直したあと、スプーンでアイスを食べる。
「ひんやり、遅れてキーン……」
乏しい表情ながらも苦しんだ。
紫苑は開いていたパンフレットを閉じた。テーブルの上には空の皿が積み上がり、金字塔を打ち建てた。
「ごちそうさまでした」
その声に立ち止まった
灯 斗南
は少し表情を動かした。紫苑と皿を交互に見て言った。
「ありがとうございました」
「とても美味しかったですわ」
席を立った紫苑の足取りは軽い。見送る斗南は再度、テーブルに積み上がった皿を目にして、凄いな、と顎に手を当てて呟いた。
調理場に一時の平穏が訪れる。各々が好きな体勢で休んでいた。
サキリは過去を懐かしむような顔で椅子に座っていた。
中学時代は荒んでいた。口の中はいつも血の味がした。殴り倒した相手の数は覚えていない。足元に転がってよく呻いていて、蹴り上げたこともある。敵が多くて学校生活を楽しんだ記憶がない。
だから、寝子祭がとても楽しく思える。こんな風に皆と協力して喫茶店をするなんて、夢にも思わなかったなあ。
サキリは自身の胸に手を当てた。胸の中に生まれた温もりに触れているかのようだった。
この島にやってきたのは偶然だ。親戚に呼ばれて、その流れで寝子高に入学した。でも、この運命を受け入れて本当に良かったと思う。
人を不幸にする側の人間から、人を幸せにする人間になりたい。
それが僕の目標だ。
薄野 五月
が湯呑を持ってきた。白い湯気が上がっている。
「上手に淹れられたかはわかりませんが、緑茶をどうぞ」
「ありがとう、貰うよ」
サキリは湯呑を口に近づけた。薄目になって静かに啜る。安堵したような溜息を吐いて笑みを浮かべた。
「緑茶の香りを引き出していて美味しいですよ」
「ありがとうございます」
五月は他の者にも労いの言葉を掛けて湯呑を配った。
「……本当にきて良かった」
サキリはゆっくりと味わうように湯呑を傾けた。
受付から解放された
早坂 恩
が伸びをしながら歩いていた。切り絵の看板を見つけて走り寄る。ここね、と喜び勇んで中へと入っていった。
恩は誰かを探すように顔を動かした。元気に歩いていた
御薗井 E セレッソ
に目が留まり、小さく手を振った。
「えっ、恩センパイ来てくれたノ?」
喜びはじわじわと顔に表れ、セレッソは駆け寄った。
「ようやく休憩に入れたから、セレッソちゃんに会いに来たわ。それに衣装も気になっていたのよね」
「どうカシラ?」
セレッソはカチューシャの位置を直した。マントを広げて回ってみた。精査するような目で見ていた恩は瞬時に笑みを作った。
「とてもキュートな魔女さんに見えるわよ」
「とても嬉しいノ! 恩センパイはお仕事いっぱいで大変そうナノ! 甘いものを食べて疲れを癒していってネ!」
セレッソはうきうきした足取りで恩を空いた席に連れていく。調理場を仕切る垂れ幕から五月がこっそり顔を出していた。二人を応援するような視線を送っている。
「センパイ、注文をどうぞナノ!」
席に座った恩はメニューを見ながら、そうねぇ、と困ったような声を出した。
「飲み物は紅茶で星座セットにしようと思うんだけど、私の誕生日ってちょっと特別なのよねぇ」
「センパイの誕生日は八月二十三日ナノ! ワタシが
日傘をプレゼントした日
ナノ!」
「そうだったわね。あの日は素敵な一日になったわ」
少し思い出に浸った恩は取り繕うように笑う。
「ごめんなさいね、話が脱線しちゃって。私の誕生日は境目になっているのよ。年によって獅子座や乙女座になるわ。だから、一つを選ぶのってとても難しいのよねぇ」
「二つの星座を頼めばいいノ!」
名案とばかりにセレッソは調理場に走っていった。恩は声を掛ける間もなく、大丈夫かしら、と呟いた。
「紅茶と星座セットで獅子座と乙女座をお願いナノ!」
セレッソが頼む前に五月は動いていた。二枚のパンケーキの上に二つのシンボルがチョコペンで描かれていた。漏れなく星形のミニゼリーとクッキーを付けて笑顔で皿を手渡す。温かい淹れ立ての紅茶は一足先に
サキリ・デイジーカッター
がテーブルに運んでいく。
「セレッソさん、応援しています」
「五月チャン、ありがとナノー!」
急いで皿を恩の元に運んだ。
「星座セット、お持ちしたノ!」
張り切って腹部に力が入ったのか。きゅー、と可愛らしい音が鳴った。セレッソは慌てて両手を振り出す。
「あ、お腹が鳴っちゃ、ってないノ! 今のはセンパイの疲れを癒す魔法ナノ!」
両手の振りが大きくなる。
「セレッソちゃん、無理は良くないわ。ちゃんと休憩しないと身体に悪いわよ」
「ワタシも休憩して星座セット、食べてもいいカシラ?」
縋るような目に恩は、もちろんよ、と親愛を込めて言った。
足早に五月がテーブルにやってきた。恩と横に並ぶ位置に星座セットの皿を置く。パンケーキにはセレッソの誕生日に合わせて乙女座が描かれていた。
「ごゆっくり、お召し上がりください」
「とても嬉しいノ! ありがとナノ、五月チャン!」
にこやかな顔で五月は二人に一礼して調理場に戻っていった。
一時の忙殺を乗り越えて穏やかな営業となる。
灯 斗南
は周囲に目をやる。身体を解すような動きを見せた。
「僕も休憩を取るか」
扉の方に顔を向けた瞬間、
緋紅朱 赫乃
と目が合った。言葉は無く、斗南は歩き出す。避ける目的で横に寄ると、相手から声を掛けられた。
「あ、灯さん……も、休憩、なんだ……他の出し物、を、見に、行くの、かな?」
「そのつもりだよ。1年2組のあべこべ喫茶に友人がいるんだ」
「そう、なんだ……私も、休憩で、行こう、と、思って、いた、から……一緒に、回って、みる?」
斗南は赫乃の横を通って扉に手を掛けた。
「一緒に行こうか」
何気ない声に赫乃は一緒に付いていく。
廊下に出ると生徒達の姿が多く見られた。解放感に浸った顔で、どこ回る? と口々に話している。
赫乃は静々と歩く。その隣には眠そうな目をした斗南が背を丸めていた。ちらりと目を向けた赫乃が口を開いた。
「……眠そう、に、見える、んだけど……いつも、夜更かし、している、の?」
「ま、夜更かしは日課だからね」
斗南は隣に顔を傾ける。少し驚いたような表情で赫乃が見上げていた。
「私は、すぐ、寝ちゃう、から……」
「小さな子供みたいだな」
「でも、朝は、すごく、早くて……お日様、出る前、に、起きるん、だよ」
心持ち胸を張る。斗南は寝癖の付いた頭を掻いた。
「そんなに起きるのが早いのか。僕も見習いたいところだ」
「最初は、辛い、かも、しれない、けど……慣れたら、誰、でも、できる、よ」
もじもじしながら赫乃は控え目な笑みを見せた。
二人は揃って1年2組の教室を訪れた。中には観葉植物が置かれていて緑が目に優しい。木目の美しいテーブルには温もりを感じて自然に表情が和らいだ。
「みんな、あべこべ、なんだ、ね……あそこ、に、いるの、は、浅山さん?」
赫乃は観葉植物で区切られたところに目を向けた。
浅山 小淋
が半身を出してサンドイッチを給仕に手渡した。にこやかな顔でスケッチブックに何かを書き込んでいる。
「浅山は燕尾服か」
斗南は大きく手を振る。気付いた小淋が早々に話を切り上げてやってきた。
『二人とも、いらっしゃい』
「浅山さん……その、格好、似合ってる、よ」
赫乃の感想に小淋は微笑んで返事を書いた。
『緋紅朱さんの魔女の姿も素敵ですよ。灯さんは貴族みたいですね』
「そうかもな。浅山は給仕をしないのか」
『筆談の接客は時間が掛かるので私は料理の方を頑張ります』
「男装がよく似合っているのに惜しいな」
持ち場に戻る小淋に代わって
日暮 ねむる
が空いた席に二人を案内した。着席する姿をぼんやりした目で見届ける。
「ご注文は決まりましたか」
「と、とんでもない、クッ、お嬢さんがいたものだ」
斗南は唇に拳を押し当てて真顔を保とうとした。目が笑みの形を作って今にも噴き出しそうであった。
「はは、当事者の僕としては笑い事じゃないんだけどなぁ」
世の中の悪意を凝縮したような笑みに、悪かった、と斗南は素直に謝った。冷えた頭でサンドイッチとコーヒーを注文して隣の赫乃に目をやる。考え込むような顔でメニューの品を指差した。
「……私は、ショート、ケーキ……飲み物は、甘い、紅茶、かな」
「わかりました。すぐにお持ちします」
ねむるはくるりと向きを変えた。青いドレスの裾を摘まんで歩いていく。その姿に斗南の口が笑みを作って、すぐに掌で隠した。
ねむるが凄まじい笑みで振り返ったのだ。斗南は取り敢えず、顔の前で掌を合わせた。その行動を側で見ていた赫乃は感心した様子で言った。
「二人は、言葉が、なくても、わかり、合える……親友、なの、かな?」
「そうなのか?」
どちらも疑問符で返したあと、運ばれてきた品々で軽い食事を楽しんだ。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
黒羽カラス
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
学校生活
定員
1000人
参加キャラクター数
145人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年08月22日
参加申し込みの期限
2015年08月29日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年08月29日 11時00分
参加キャラクター一覧
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