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1年2組
:あべこべ喫茶、1年2組の教室(南校舎1階)
扉が勢いよく開いて
難波 辰
が一番乗りを果たした。
「ちゃっちゃと着替えて宣伝に行くでー!」
着ていた衣服を脱ぎ散らかし、詰め物入りのブラジャーを装着。ピンクのチュニックに袖を通し、赤いチェック柄のミニスカートを手早く穿いた。教室の壁に立て掛けてあった宣伝用の看板を目にして、靴下や、と赤を基調にしたオーバーニーソックスに交互に足を突っ込んだ。
寝癖の付いた金髪に適当に手櫛を入れる。手にした看板を肩に乗せて大股で教室を出ていった。
廊下には作業に追われる生徒が多く見られた。始めるで、と口にして辰は看板を高々と掲げる。
「1年2組のあべこべ喫茶をご贔屓に~」
恰好に合わせて声に甘ったるい成分を加える。妙に腰をくねらせて歩いては方々に向けて声を張り上げた。
「あべこべ喫茶には俺、やなくてウチみたいなゴッツかわええ子がいっぱいやで~、よろしゅ~」
「私もいるのよ、よろしくね♪」
通り掛かった人物が裏声で周囲に手を振った。興味本位で向けられた視線は速やかに散っていく。
「そこの化け物、営業妨害やで」
「難波、それは言い過ぎだぜ」
素の声を聞いた途端、にぎりっぺか、と辰が呆れたような声を出した。
「見ての通り、俺だぜ!」
握 利平
の言葉に、あのなー、と辰は言い掛けて相手の全身に目をやる。
頭からすっぽりと紙袋を被っている。目と口の部分が切り抜かれていた。黒く縁取られた両目に赤く塗りたくった唇が無気味であった。
服装は輪を掛けて酷い。極彩色のTシャツに煤けたクリーム色のカーディガンを合わせている。毛玉が模様のように出来ていた。穿いているロングスカートは緑と黒の中間で不気味に不吉を混ぜ込んでいる。
辰は利平の肩に手を置いた。可能な限りの笑顔を見せる。
「にぎりっぺは教室の方を頼むわ。まだ完全な状態やないし」
「そうか。俺に任せろっ!」
利平はスカートを翻して走り出した。溜息で見送った辰は、助かったわ、と声を漏らして宣伝活動を再開した。
「1年2組にはウチみたいなかわええ子がいっぱいやー。よろしゅーしたってな」
「ホ、ホンマにゴッツかわええやん」
多分に笑いを含んだ声に辰は焦った表情で振り返る。ツインテールを震わせていた
四野辺 蘭月
がいた。目が合った瞬間、大きな笑い声が起こる。
「あははっ、に、似合ってるで!」
「全く思ってへんやろ」
口を尖らせた辰に蘭月は眼鏡の奥の目を指で擦りながら言った。
「ホンマに似合ってるで。ごっつい肩パッドのギャルっちゅー感じで」
「肩は天然や。こっちは養殖やで」
羞恥心を捨て去ったのか。辰は迫り出した自身の胸を揉みしだく。あはーん、と野太い声に蘭月は腹を抱えて笑った。
「あー、しんど。笑い殺されるところやったわ」
「笑い過ぎやって」
「普段はそれだけ男らしい、ゆうことにしとき。これが証拠やん」
蘭月は照れたように笑って携帯電話を取り出す。
目立つところにプリクラが貼ってあった。
「な、男らしいやろ?」
八重歯を見せて笑う蘭月に辰は目が離せなくなった。一緒に帰省した時の映像が頭に浮かぶ。
いつもと変わらない態度で接した。内心では蘭月の両親に紹介されることを期待して胸を高鳴らせていた。
「アカン、あの時と同じや」
辰は顔に向かって手を振った。
「難波くん、記念に写真を撮らへん? それをモザイクアートに貼って貰おうや」
「ええけど、宣伝も大事やし」
「受付に行く間にすればええやんか」
蘭月に腕を掴まれ、辰は受付に強制連行となった。
誰もいない教室で
花厳 望春
は姉から借りた制服に着替えた。持ってきた手鏡で出来栄えを確かめる。
「さすがはOGだね」
現役の女子生徒と変わらない姿であった。早速、宣伝の為に1年2組の教室の前に立つ。
「あべこべ喫茶は私達のような女の子……ん、男の子か、可愛らしい男の子は女の子で、あれだ、接客しますよー」
望春は項垂れた姿で後ろに向いて額を扉に当てる。
「……言っている意味が自分でもよくわからない」
「あら~ん、どうしたのかしら~ん♪」
背後のふざけた調子の声に望春は向き直る。頭から紙袋を被った
握 利平
の姿を見て即座に隣のクラスを指差した。
「ホラー喫茶は隣だよ」
「容赦ねーな。俺だって」
利平は紙袋を取った。異様に白い顔に打撲痕のようなアイシャドウが際立つ。過剰な頬紅は日本の国旗に似ていた。口紅は唇を食み出して塗られ、赤くぎらついている。
まじまじと見たあと、望春は利平の持っている紙袋に目を落とす。
「被ってた方がよくないか」
「自覚はしてたが、予想以上の反応だぜ。完璧なブス過ぎて、いっそ清々しいな!」
利平は凄まじい笑顔を見せた。反応に困った望春は廊下に目をやる。行き交う人々に向かって宣伝を再開した。
「性別があべこべの喫茶店ですよー。お客様の指名でダンスを踊ることもできます。間もなく開店です。是非、お試しくださーい」
二人組の女子生徒が歩きながら横目を向ける。
「……一人は男子だけど」
「もう一人は女子だよね」
怪訝な顔で通り過ぎていった。耳にした望春は利平に中の準備を頼んだ。
「接客は任せろ! 調理にも回るけどな!」
利平は鼻歌交じりで教室の中に入っていった。
「やるか」
望春は笑みを浮かべて宣伝に力を注いだ。
天満 七星
は黒いスーツを着て颯爽と廊下を歩いていた。ふと表情を歪ませて北校舎が見える窓に向き合う。
微かに映る自身の姿を頼りにネクタイの形に手を加える。一本に束ねた髪にも細心の注意を払う。
「……きついですわ」
着ている背広の襟に指を掛けて引っ張る。出来た隙間に指を入れようとして阻まれた。
「慣れるしかないですわ」
七星は表情を引き締めて1年2組の教室へと向かう。その途中で呼び止められた。声の方を見ると
伊藤 佳奈
が人々を交わしつつ、軽やかな足取りでやってきた。
「七星ちゃん、スーツ姿がカッコイイねぇ」
「おはようございます。伊藤様も学生服がよくお似合いですわ」
「えへへ、ありがとう。もしかして、この格好の元ネタを知ってたりするのかな?」
佳奈は被っていたキャスケットの鍔を上げた。期待に膨らむ目で七星を見詰める。
「ごめんなさい。私にはわかりませんわ。でも、どうして知りたいのですか」
「実はこの衣装、あたしが選んだわけじゃなくて、お母さんに強く勧められてねぇ」
困ったように笑う。そうなのですか、と七星は親身になって返した。
「なんかね、『ペルソニャ4』ってゲームに出てくるニャオトのコスプレなんだって。男装の少女探偵らしいんだけど、あたしは知らなくて接客の時にどんな喋り方をすればいいのかなぁ、って悩み中なんだよね~」
「それはお困りですわね。私も出来れば協力したいのですが、そのゲームは存じていませんので、お役に立てそうにありませんわ」
七星は申し訳ないと頭を下げた。気にしないでー、と佳奈はあたふたと慰める側に回った。
そこに歩き辛そうにやってきたのは和服姿の
蜂矢 時生
であった。髪には花飾りを付けている。着物は可憐な草花が淡い色合いで表現されていた。
「それって『ペルソニャ4』のニャオトのコスプレだよね」
何気ない時生の言葉に佳奈は目を大きくした。縋るような表情を向けた。
「時生君はゲームに詳しい?」
「好きなジャンルはあるよ。それとゲームは趣味だね」
「ニャオトっていう人物のことを教えて欲しいんだけど」
切実な声に時生は佳奈の顔を見た。
「ゲームのニャオトは、少し釣り目になっているよ」
「こ、こんな感じかな」
佳奈は力んで聞いた。頬に赤みは差していたが垂れ目に変わりはなかった。
「言葉遣いを直した方が早いね。ニャオトは『僕』をよく使う」
「わかったよ、『ボク』だね」
「それで基本は、ですます調だね」
話は終わったとばかりに時生は歩き出そうとした。難しい顔で聞いていた七星が回り込む。
「着物が着崩れています。折角の愛らしい姿が、だらしなく見えては魅力が半減するのですわ」
七星は緩んだ襟を正して帯にも調整を施し、見栄えが格段に改善された。
「天満、ありがとう。また緩んだ時は直して貰えるかな」
「私で良ければお手伝いしますわ」
ほんわかと結束を固めて三人は教室に向かった。
教室の黒板には可愛らしい文字で『あべこべ喫茶』と書かれていた。木製のテーブルと椅子が店らしい雰囲気を醸し出す。赤いカーテンは華やかさを演出した。所々に置かれた観葉植物は目に優しく、隅の調理場の衝立にも利用されていた。
「あとは細々とした掃除だけか」
担任の
桐島 義弘
は威厳のある顔で腕組みをした。
テーブルを台拭きで拭いていた
浅山 小淋
は満足そうな笑みを浮かべた。少しずれた伊達眼鏡は指で押し上げた。女性の象徴のような長い髪は後ろに束ねて燕尾服の中に入れて、見事に男装の麗人を演じていた。
小淋は持っていた手帳に手早く文字を書き込んだ。
『桐島先生、全てのテーブルを拭き終わりました』
「そうか、開店まで時間がある。休める間に休んだ方がいい」
『そうですね。調理は立ち仕事になるので、お言葉に甘えて休ませていただきます』
窓辺の暖かい椅子に小淋は腰を下ろした。微睡むような目を窓外に向ける。
床の掃除を終えた
日暮 ねむる
が上体を起こした。青いイブニングドレスを着た状態で腰の辺りを叩く。気が緩んで大きな欠伸が漏れた。
目にした義弘は厳しい表情となる。
「本番は間近だ。女性らしい所作を忘れないように」
「眠々(みんみん)として頑張りますよ。先生は大丈夫ですか?」
ねむるは女子生徒に扮した義弘を見て言った。
「い、いらっしゃいませ。桐島義子が、お席までご案内します……これでどうだ?」
「生徒指導室に連れて行かれそうですね」
ねるむの言葉に窓を拭いていた
握 利平
が声を出して笑った。
「見た目はおまけみたいなもんだよな。俺はヘンに気負わないで爽やかに演じるぜ」
「挫けずに努力をすれば自ずと道は拓けるものだ」
義弘は利平から目を逸らして語った。
調理場から
北原 みゆき
が出てきた。白いシャツにグレーのベストを着用。白黒のストライプのネクタイを締めていた。
「ドリンク類の用意ができたよ。私は映研と掛け持ちだから、そろそろ行くね」
そこに
伊藤 佳奈
が元気よく入ってきた。
天満 七星
と
蜂矢 時生
が並んで加わった。
「他の者も直に集まる」
義弘は時間を気にする素振りを見せた。各自の表情が心境を物語る。
開店と同時に
四野辺 蘭月
が
難波 辰
と連れ立ってやってきた。女装や男装の姿を目の当たりにして黄色い声を上げた。
蘭月は真っ先に小淋の元へと駆け寄る。
「淋くん、なかなかのおっとり美少年やんか」
『そんなに美少年でしょうか?』
自身の姿を照れ臭そうに見やる。
「でも、書きながらホールは大変そうやね。あ、オーダーを受けるんは逆に便利やったりするんかな」
『私は調理場が担当なのでホールに出ることは少ないと思います』
「えー、そうなん? 美少年やのにもったいないわ」
その言葉に小淋は困ったように笑う。話の流れを変える為なのか。辰は妙な品を作りながら蘭月に擦り寄る。
「ウチは辰子いいます。お客様の席はこちらになりますぅ」
「な、なんやの、辰子って。源氏名にしても酷いわ」
蘭月はツインテールを震わせて笑いを堪える。辰はその状態で席に案内した。それが切っ掛けとなって、それぞれの持ち場に就いた。
営業を開始したあとも
花厳 望春
は宣伝に励む。
「性別があべこべの喫茶店だよー。可愛らしくて、凛々しくて、不気味なのも混ざった楽しい喫茶店をよろしくー」
その声に引き寄せられるかのように
宮祀 智瑜
が近づいていく。制服を着用して首からはカメラを下げていた。
「担任の義弘先生もあべこべなのですか」
「そうだけど。確か源氏名は義子だったかな。ノリノリな感じで接客してるよ」
「あの、義弘先生が、義子でノリノリ……」
ほんのりと頬を染めた智瑜がカメラを握る。髪に結んだ青いリボンが感動に打ち震えているようだった。
「それではお邪魔させていただきます」
「ゆっくりどうぞー」
勧められた扉を開けて智瑜は中に入る。方々から、いらっしゃいませー、と声を掛けられた。
その中の一人、
桐島 義弘
の姿に目が留まる。女子生徒の格好でテーブルを拭いていた。長い髪は腰まで届き、スカートは膝の上という短さであった。
熱心に見詰める智瑜の姿に他の者は対応に迷う。訴えるような視線を義弘に向けたが真面目な性格が災いして気付かない。苛立ちを募らせた
難波 辰
が大股で近づいて肩を揺する。
「桐島センセ、指名が入りましたで」
「この私を指名する者がいるのか?」
顔に掛かる髪を掻き上げて義弘は扉の方を見た。目が合った智瑜は嬉しそうに小さく手を振る。なるほど、と一言で理解した。
「ここは俺、ウチに任せて、桐島センセは接客を頼みますわ」
「期待には答えないといけない」
銀縁眼鏡の奥の目は厳しさを増した。睥睨するような高みで智瑜の元に歩いていく。スカートを揺らして止まり、硬い表情ながらも口角を上げた。
「ご指名、ありがとうございます。桐島……義子がご案内します」
「話には聞きましたが本当に義子なのですね」
「……設定上、仕方がない。こちらになります」
本音をぼそりと呟いて観葉植物の近くの席を勧めた。智瑜は椅子に座るとテーブルのメニューを無視して義弘に目を向ける。
「先生、少し話を聞いてもいいですか」
「気になることでもあるのか」
「女子高生の服を選んだのは先生で、そのような趣味があるのですか?」
義弘の細い眉が不自然に釣り上がる。震える指先で何度も眼鏡を押し上げた。
「こ、これは勝手に生徒が用意したものだ」
「今回の喫茶店を切っ掛けに女装に目覚めたりして?」
智瑜は上目遣いとなる。絶対にない、と義弘は顔と手を激しく振った。
「本当ですか?」
「当たり前だ」
下から覗き込むような格好の智瑜に言い切った。
「また制服が必要になったら私に言ってください。いつでも貸しますよ」
「その時は頼むとしよう」
「今でも良いですよ?」
はにかむような笑みで制服のボタンを上から外していく。豊満な胸が解放されて零れそうになった。
義弘は視線を引き剥がし、少し上ずった声で注文を促す。遣り過ぎたことを反省するように笑って智瑜はテーブルのメニューに目を向けた。
「えっと、サンドイッチと甘めのコーヒーでお願いします」
「少々、お待ちください」
義弘は隅の調理場に足早に向かう。その姿をうっとりとした目で智瑜は眺めていた。
「遅くなっちゃってごめん」
男装の格好で
北原 みゆき
が戻ってきた。白黒ストライプのネクタイを正し、二枚目に相応しいような顔を作る。
学生服を着た
伊藤 佳奈
が近くに来て声を掛けた。
「掛け持ちは大変ですね。あた、ボクと違って。慣れない喋り方で大変です。ユキト君は大丈夫ですか」
「ま、ボクくらいになれば、そんなの気にするようなことではないよ」
語尾が少し震えていたものの、みゆきは表情に出さずに言い切った。
二人の女性が不安そうな目で入ってきた。幼い顔立ちは中学生くらいに見える。みゆきは金色の前髪を掻き上げた。
「ボクの出番のようだ。完璧なテクニックで子猫ちゃんを満足させてあげよう」
みゆきは足早に歩いて二人の前で一礼した。
「ボクはユキトだよ。可愛いお嬢様方、こちらの席へどうぞ」
先頭に立って空いたテーブルに二人を座らせた。みゆきは同席する形で注文を聞く。
「お嬢様方は紅茶とショートケーキが希望なんだね。フフ、ボクも何か注文しようかな」
戸惑う二人を余所にみゆきは平然と手を挙げた。通り掛かった義弘が怪訝な顔で立ち止まる。
「お嬢様方に紅茶とショートケーキを。ボクはそうだね、エスプレッソを貰おうか」
「メニューにないが」
「あれ、ないの? じゃあ、紅茶とサンドイッチにしようかな」
「自腹になるが、いいのか」
「え、そうなの? じゃあ、ボクはやめておくよ」
腑に落ちない表情で義弘は注文を伝えにいく。
みゆきは二人の方に顔を向けて笑みを浮かべた。
「さあ、ボクと楽しいトークで盛り上がろうじゃ……え、喫茶店ではこういうサービスはしないって? シャンパンタワーとかは」
二人は全力で否定して、それはホストクラブ、と声を揃えて言った。
「そ、そうなの~」
二人に教えられる事態となった。
「ここですね」
勝ち気な表情で
本条 小萩
が現れた。大きな目を接客係に向けて空いた椅子に座る。相席ではない状態で独り言を始めた。
「このあべこべ喫茶のように異性の服装を着ることを専門用語でエオニズムと言います」
「はあ、そうですか。ご注文はどうしますか」
近くを通り掛かった
日暮 ねむる
がドレス姿で対応に当たる。小萩は人差し指を立てて目を見開いた。
「語源は女装で約半生を過ごした十八世紀のフランスの男性外交官、名前を知っていますか」
「知りませんけど、あの、ご注文を聞きたいのですが」
「エオン・ド・ボーモンです。エオニズムはトランスベスティズムとも言われていますね」
小萩は満足した顔で立ち上がると何も注文しないで出ていった。ねむるは眠そうな目で立ち尽くす。
注文の品を待っていた
四野辺 蘭月
が八重歯を見せて笑う。
「眠々ちゃん、話を聞きながら瞼が落ちそうやったで。仕事中に立ったままで寝たら危ないし、アカンよ」
「はは、大丈夫だよ蘭月さん。恥ずかし過ぎて眠る余裕なんてないから」
ねむるは眠そうな目で言ったあと、掌で口を覆った。隠れて欠伸をしているように見える。
「眠々ちゃんらしいわ」
「お待たせしました、お嬢様。ショートケーキと紅茶になります」
詰襟を立てた学生服で
伊藤 佳奈
は颯爽と現れ、テーブルに注文の品を置いていく。
「カナンくんの男装は近くで見ても、ホンマによう似合ってるわ」
「ありがとうございます」
照れ隠しにキャスケットを目深に被る。蘭月は、ホンマやで、とお世辞ではないことを主張した。
「きりっとしたところが少年っぽくて」
言いながら視線が佳奈の滑らかな胸に止まり、すぐに目を逸らした。
「うん、なんでもないで」
「あ、はい。では、ごゆっくりおくつろぎください」
努めて笑うと佳奈は踵を返した。歩きながら自身の胸に目をやった。
サラシとか巻いてないんだけど。この状態で男装を褒められて喜んでいる、あたしって。
気持ちと同様に沈む頭を強引に浮上させた。背筋を伸ばし、綺麗な姿勢で歩き回る姿は地味ながらも人目を引いた。
「伊藤が張り切ってるんだ。俺もがんばらねーとな」
握 利平
は不気味を体現した化粧で注文の品を運んでいた。義弘の姿を熱心に目で追う智瑜の前にサンドイッチとコーヒーを届けた。
「大変、お待たせしました♪ こちら、ご注文のコーヒーとサンドイッチ、それとサービスのスマイルになります、ウフ♪」
白塗りの顔に黒く縁取られた双眸で笑みを作った。両頬の赤い丸が盛り上がる。鮮血のように赤い唇の口角が釣り上がった。
智瑜は言葉を失った。激しく泳ぐ目がテーブルに置かれたサンドイッチに留まる。フライにされた魚の顔が食み出ていた。
「あの、サンドイッチにヘンなものが挟まっているのですが」
「実家に帰った時に新鮮なアジを大量に押し付け、貰いましたのでフライにしてサンドイッチに挟んでみました♪ 美味しいような気がします、たぶん」
最後の弱気な発言に智瑜の不安は拭い去れない。利平の期待に満ちた目に半ば押し切られ、瞼を閉じてサンドイッチの端に齧り付いた。小気味よい音が辺りに響いて、美味しい、と口を手で隠すようにして言った。
利平は得意げに自身に親指を向けた。
「塩味を加えて正解だっ、でしたわ♪」
「パン生地が口直しになって良い感じです。意外とコーヒーにも合いますね」
「楽しんでいってくださいね♪」
滅入るような暗い色のスカートを翻し、利平は鼻歌交じりに戻っていった。
「……楽しみたいです」
智瑜は立ち上がった。目の前を横切ろうとした義弘を呼び止める。
「何かご用ですか」
「義子さんにお願いが」
近づこうとして足が縺れた。倒れる智瑜を義弘は辛うじて胸で受け止めた。
「大丈夫か」
智瑜は答えないで胸の辺りに触れた手を動かし、頬をほんのりと桜色に染めて顔を上げた。
「女物の下着を付けていないのですね」
「あ、当たり前だ。私は」
「今日は義子さんですよね」
先回りの言葉に義弘は完全に封じ込められた。忙しく眼鏡を押し上げ、目を合わせられない状況に陥る。
その様子に智瑜は少し反省した顔で首から下げたカメラを手にした。
「記念に二人の写真を撮ってもいいですか」
「その程度ならば許可しよう」
「ありがとうございます」
智瑜は義弘の横に並んだ。首からカメラを外して思い切り手を伸ばし、二人の姿を収めようとした。身長差があるのでアングルが決まらない。
着物姿の
蜂矢 時生
が調理場に向かう途中で足を止めた。
「写真、代わりに撮ってあげるよ」
「いいのですか」
智瑜の喜ぶ顔に、任せてよ、と時生が答えた。カメラを受け取ると仕様を調べて即座に構える。
「先生、もう少し横に寄ってください。そうです、その位置で自然な表情をお願いします。どちらも目は閉じないでくださいね」
二人の表情が和らいだ瞬間を狙ってシャッターを切った。間もなく時生は再びカメラを構える。
「モザイクアート用にもう一枚、写真を撮ってもいいですか。実行委員会のメンバーで撮影を手伝っています」
突然の提案に二人は目を合わせて数秒で快諾した。
ほのぼのとした雰囲気が人の心を和ませるのか。客側からダンスの指名が入るようになった。立ち居振る舞いで目立った佳奈は女子生徒と手を取り合って踊る。テーブルの合間を滑らかに通り抜けて多くの拍手が送られた。
難波 辰
は踊る二人を見て、せや、と声を上げた。テーブルで頬杖を突いていた蘭月の元に足早に向かう。
「蘭月、逆指名や。二人で踊ろうや」
「え、ここで? 友達の前でそれは恥ずいって!」
「こんな姿の彼氏やと萎えるんやろか」
しんみりとした声に蘭月は笑って席を立つ。
「ほな、ちょっとだけやで。そや、難波くんは辰子ちゃんやねんから、女子として踊りぃや。あたしが男子として踊ったるわ」
「ええけど、出来るんか?」
「試せばわかるやん」
二人は引き寄せられるように手を繋いだ。身長差があるので辰は心持ち膝を曲げた。反対に蘭月は爪先立ちとなり、踊り始めた。滑らかさには欠けるものの、楽しそうな様子に周囲の人々の目が優しくなる。
蘭月の携帯電話に貼り付けた笑顔を再現したかのように二人は踊った。
「へへ~、いっぺん男子として踊ってみたかったんよ。でも、背の高さが逆やと踊りにくいわ。難波くん、背ぇ高いもんなぁ~」
「ゆったりした動きなら、大丈夫やろ。甘い雰囲気に包まれて二人の世界に浸ろうや」
女装を思わせない辰の強い視線に蘭月は目に恥じらいを浮かべて、せやな、と握る手に力を入れる。
教室の扉がゆっくりと開き、
鬼久保 美桜
が取材で訪れた。
「ダンスを踊る人がいるんだね……あれは社交ダンス……?」
「いらっしゃいませ、お嬢様。六芒(ろくぼう)がご案内させていただきます」
天満 七星
が黒いスーツ姿で出迎える。美桜は要領を得ない顔で言った。
「私のこと……お嬢様って……?」
「そうですよ、お嬢様。ダンスを希望されますか」
「私は見てるだけ。今日は新聞の取材できたから……」
静かな受け答えの中に強い意志が窺える。
「そうですか。では、こちらへどうぞ」
七星は空いている席に手を翳し、毅然とした態度で誘導した。美桜が椅子に座るのを傍らで待ち、テーブルのメニューを手に取った。
「お嬢様、今日のお勧めはこちらになります」
ショートケーキを手で示した。美桜の赤い目が留まり、ドリンクへと流れる。
「オススメのショートケーキと……日本茶をいただくね……」
「紅茶ではなくて緑茶ですか」
ぎこちない笑みで聞くと美桜はこくりと頷いた。ちょうど目の高さに七星の胸がある。少し見てから顔を上げた。
「苦しそうに笑うけど、スーツのせいなのかな……」
「わかりますか? 体型を隠すためにきつめの服を用意しました。表情には出さないように気を付けていたのですが」
「少し苦しそうに見えた、かな……」
「慣れるように頑張ります」
七星は一礼して下がる。歩きながら胸中で自身を励ました。
大丈夫、私なら乗り切れますの。いつもの接客の手伝いを思い出すのですわ。
暗示に掛かったように表情には余裕が生まれる。あとから入った注文を柔和な顔でこなした。
「お嬢様、ご注文の品をお持ちしました」
七星は自然な笑みでテーブルに品を並べた。美桜は湯呑を掴んだ。高台に手を添えて一口、茶を啜る。
「ん……美味しい」
「ありがとうございます」
去り際に七星は満面の笑みを浮かべるのだった。
御巫 時子
は裏方の仕事から解放された。休憩時間を利用して校内を巡る。三つ編みを揺らして周囲の人々に目を向けた。白い服を着た痩身の男性には過敏に反応した。
「どこに……」
沈んだ顔が一瞬で明るくなる。時子は肩の鞄を引き上げて北校舎へと走り出した。
校舎の中は人で溢れていた。少ないところを縫うように走って階段を上がる。二階の廊下に出ると理科室を目指した。
「いるのでしょうか」
不安を募らせた顔で扉を開けた。途端に表情が笑顔に変わる。
「尚輝先生、ここにいたのですね…」
窓辺に
五十嵐 尚輝
が佇んでいた。ボサボサの茶色い髪は寝起きのように見える。白衣を着た姿で黒い液体の入ったビーカーを持っていた。
「今日は寝子祭ですよ」
「にぎやかな様子が、ここまで聞こえてきます」
尚輝は手にしていたビーカーの中身を少し口に含んだ。時子は足早に近づいて想いを口にした。
「コーヒーを、私と一緒に飲みませんか……」
「たまには、いいかもしれませんね」
ビーカーの液体をシンクに流すと尚輝は時子の方に向き直る。
「どこに行きましょうか」
「1年2組の出し物が喫茶店なので……そこにしませんか」
「御巫さんのクラスですね。ちなみにコーヒーはありますか」
はい、と弾けるような声を聞いた尚輝はゆっくりと歩を進める。時子はしおらしい表情で隣を歩いた。
人波に揉まれながらも二人は離れず、南校舎の1年2組に辿り着く。教室の前では女子生徒の姿で
花厳 望春
が宣伝に力を入れていた。
「いらっしゃいませー、って御巫さんか。五十嵐先生も一緒なんだね」
「望春さん、とても似合っています」
「ありがとう、この姿を褒められると複雑な気分になるけど」
柔らかい笑みで時子は尚輝と一緒に教室に入っていった。
中で待機していた
握 利平
が素早く対応に当たる。
「いらっしゃいませ、あべこべ喫茶へようこそ♪」
変装に近い厚塗りの顔を時子は凝視した。手探りのような声で尋ねる。
「もしかして利平さん、ですか?」
「良い反応だ。完璧なブスだからな。あ、写真とかはNGだぜ。ケータイの待ち受けなんかに使われちゃ、たまらねえからさ」
「わかりました」
時子は笑って答えた。利平は声色を変えて、こちらになります♪ と空いている席に二人を連れていった。
「ご注文をどうぞ♪」
「私はショートケーキと紅茶をお願いします。尚輝先生はコーヒーですね」
「はい、そうです」
「すぐにお待ちしますわ♪」
利平はスカートを翻して走った。周囲に不気味な笑顔を振り撒き、何人かの口からジュースを噴き出させた。近くで注文を受けていた
難波 辰
が慌てて台拭きを手にテーブルを回る。
「にぎりっぺ、その笑顔は反則やで」
苦笑いで不満を零しながら客には、勘忍してや~、と可愛らしさを前面に押し出す。すると客は照れたように笑って許してくれた。
その微笑ましい遣り取りに時子は微笑む。
「皆さん、本当によく似合っています。そう思いませんか、尚輝先生」
隣に座る尚輝に話を振った。
「そうですね」
そこに
蜂矢 時生
が静々と歩いてきた。トレイには注文の品が乗っている。
「お待たせしました。時生(ときよ)がご注文の品を持ってきました」
時生は片方の肩を上げたまま、テーブルに注文の品を並べていく。襟の部分が緩くなっていて今にも肩が出そうになっていた。
「ごゆっくり、どうぞ」
静々と戻っていく途中で
天満 七星
が駆け寄って着崩れた着物を手早く直した。連携が取れた動きに時子は感心した目を向ける。
ふと視線が背の高い女子生徒に引き付けられた。
桐島 義弘
が数学の授業と変わらない厳しい表情で接客に当たっていた。
「義弘先生も女子生徒の姿なのですね。尚輝先生の時を思い出します」
「そのことは、忘れてください」
少ない口数で返すと尚輝はテーブルのコーヒーを手に取った。少し背中を曲げて啜る。
「可愛らしい尚輝先生の姿は忘れません。白くて細い足はとても綺麗でした。少しスカートが短くて、男性用の下着が……」
「僕は実験には凝りますが、女性用の下着は専門外でした」
「今度は細部まで気にして、女子高生の姿を見せてくださいね」
楽しそうな時子の表情に尚輝は口籠り、コーヒーを飲んだ。
一息吐いたところで話は広がりを見せる。尚輝は実験での成果を語った。時子は自身の手を合わせて話に聞き入った。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
黒羽カラス
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
学校生活
定員
1000人
参加キャラクター数
145人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年08月22日
参加申し込みの期限
2015年08月29日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年08月29日 11時00分
参加キャラクター一覧
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