読書会　～語ろう、あなたの一冊を～｜リアクション

読書会　～語ろう、あなたの一冊を～

【８番手　神野美野梨　研究少女の惹かれた世界】

「珈琲を飲みながら本について語る機会なんて、なかなかないものね。よろしくお願いします」
　そう言って、ゆっくりと全員の方を向いたのは神野美野梨。
　ちなみに、立つ、立たないは自由であった。多くは本が見えやすいように立っていただけである。
「今日持ってきたのは、現枕寞『下弦の月をかじる寝子』という本よ。『これは、進化についての物語である。同時に、宇宙についての物語である』という帯の言葉に惹かれたの。……学術系の本だと思ったわけじゃないのよ？」
　最後に、少しだけ付け加える美野梨。
「そういう本も読むのかと少しだけ印象が変わったが、親しみやすくなったな」
　修が茶々をいれる。
「……普段どういうイメージがあるか、あとでじっくり解剖するとして」
　じとっと修をにらみつつ美野梨は続ける。
「作中に出てくる螺旋の説明や旧かなづかいの文もたくさんあって、とっつきにくいかもしれないけど。気になるならそこは飛ばしていいわ。読み進んでいっても訳がわからないと思う。でもわからないなりにとても興味深くてやめられなくなるわ。世界の謎について、とても考えさせてくれる作品なの」
「世界の謎、いいねぇ。そういう作品も面白そうだ」
　巴の言葉に頷く美野梨。
「現実世界のカメラマンとしての話と、記憶を失って不思議な世界にやってきた男の物語が交錯するわ。こういった、不思議な世界での話は読みやすいと思うわ。読むことで読み手は新たな世界を進んでいくことになる。映像だと勝手に話が進むけど、本は読まないと世界が拓けないのが読書の魅力だと思うの」
　そう言って、一同を見回す美野梨。みなそれぞれ思うところを考えている。
「本は読まないと世界が拓けないか、良い言葉だね」
　十字は言葉を噛み締めるように頷く。
「自分は何者であるのか。人は問い続ける。答えを求めて進まずにはいられない。そういったテーマが物語となって、ある種の宇宙が表現されているのよ」
　そう言って、美野梨は言葉を締めくくる。
「あ、よかったら手にとってめくってみてね」
　自分の話に熱中したのか、うっかり本を回すのを忘れたのを除いては、スムーズな発表となったのであった。
（本の説明は難しいわね……）
　他の人の本の紹介を聞きながら、また色々模索してみようと美野梨は思うのであった。