読書会　～語ろう、あなたの一冊を～｜リアクション

読書会　～語ろう、あなたの一冊を～

【７番手　桜崎巴　戦争は平和なり、自由は隷従なり、無知は力なりという言葉】

「あたしが紹介するのは、G.ニャーウェルの『寝子暦1341年』さ。舞台は、誰もがここが理想郷だと認識する事を強要されている1341年の寝子島。所謂ディストピアものだね」
　次に立ち上がって本を見せたのは桜崎巴。
　ディストピアもの、一時期全体主義が世界に大きく存在した時代に出されてたさまざまな小説たち……。
　反ユートピア思想であふれており、社会的や政治的な課題が論じられた。
「そういえば、イギリスでは書棚にあって読んだふりをするランキングでは上位をとったとかなんとか聞いたことがあります」
　アリシアはそのタイトルがあがると、まっさきにそちらが思い浮かんだようだ。
「そういう話も合ったねぇ」
　巴は、そう答えつつ続きを話す。
「粗筋はこうだ。舞台の寝子島はネコアニアの支配下にあり、偉大なる指導者のグレート・テオの言葉の前には黒いものであっても白と言わなくてはいけない社会になった。……実際にすぐに誰かが黒だというのだけどさ。そういった『あれは黒だ！』という考えは捨てなきゃならない。主人公は、その黒い！　となったものを白に変える仕事をする一人だった」
「どういうことだ……？」
　さっぱり分かっていない刀。
「さくっと言えば、あいつが悪いことをしたらあいつは悪い奴だ！　ってなるよね」
　そんな刀に円が説明している。
「そうだな」
「だけど、支配者が悪い奴だ！　というのがあってもいや、あいつは悪くないって言えば、無罪ってことだねー。ついでに、逆もしかり、あいつが悪くなくても悪いってなれば首すぱーんってこと」
「……想像もつかないなぁ」
　そんな円と刀を横目に、巴は続ける。
「けれどもある時主人公は、その仕事に疑問を持ち、テオが手に入れたら燃やせと言った本、クローネ・イチゴスキーの書を手に入れる。この歪んだ支配が、如何なる社会的不安定を恐れて生み出されたものかを解く本をね。最終的に主人公は罪が発覚し、洗脳の結果幸福を感じながら自ら処刑を懇願する」
「救われないお話ね」
　丸美がぽつりという。
「いや、主人公は幸せだったろうさ」
　そんな丸美に話しかけるように巴はいう。
「どうして？」
「主人公は最後幸福を感じていたからさ」
「……皮肉よね、それ」
「あぁ、皮肉さ」
　細かいことはあとでじっくり話そうじゃないか、とそういって、巴は言う。
「……正直、逮捕から改心の流れにゃ嘘臭さを感じるが問題はそこじゃない。重要なのは、目の前の真実よりも誰かの言葉を有難がるのはネコアニア人に限らないって事さ。誰だって一度は、どんなに正しい事を言っても聞かない輩に辟易させられた事はあるだろ？」
　心当たりがあるものは、あぁそういえば、という表情を浮かべる。
「そいつらは確かに幸せなのさ……主人公のようにね」
　そう言って、巴は締めくくる。
「ディストピアが前面に出ているだけに、すっきりしない感じね」
　紫の言葉に、確かにこの本には得体の知れないすっきりしない感じがあると、幾人かは思ったのであった。